第4回四国建築賞2022
趣旨
建築家は、その業務において文化を継承、創造し、自然環境をまもり、 安全で快適な環境つくりを目指し、人々の幸福と社会文化の形成に寄与しなければなりません。 JIA四国支部ではJIAの建築家憲章の理念に基づき、四国4県に造られた 建築作品、群、あるいは活動において、特に4県それぞれの四国らしさ、 すなわち風土性、社会性、歴史性、文化的文脈が受け継がれ、昇華されたものを顕彰する目的で四国建築賞の制度を設置しました。本賞は、JIA会員のみならず、優れた建築文化や環境形成、地域の発展に寄与した建築作品を設計し、地域活動を展開されている建築家、個人、団体を幅広く募集、顕彰いたします。

応募対象
2012年1月1日〜2022年5月31日 四国内に完成した建物または活動
応募登録期間
2022年5月 1 日 〜 6 月 30日
趣旨
建築部門
審査員長
古谷 誠章氏(早稲田大学教授 / 有限会社ナスカ 代表取締役)
審査員
多田 善昭氏 (日本建築家協会会員)
審査員
松村 暢彦氏(愛媛大学教授・日本建築学会会員)
業績部門
審査
四国建築賞実行委員会 
主催
(公社)日本建築家協会四国支部
後援
高知県 愛媛県 香川県 徳島県
高知新聞社 愛媛新聞社 四国新聞社 徳島新聞社 RKC高知放送
(一社)日本建築学会四国支部 (一社)日本建築構造技術者協会四国支部  
(公社)高知県建築士会 (一社)香川県建築士会
(公社)愛媛県建築士会 (公社)徳島県建築士会 
(一社)高知県建築士事務所協会 (一社)香川県建築士事務所協会
(一社)愛媛県建築士事務所協会 (一社)徳島県建築士事務所協会

■総評
 JIA四国建築賞の審査に携わって今年で第5回となりました。コロナ禍が収まらない中、今回は一般部門と住宅部門合わせて10作品を延べ3日間かけて見てまわりました。一次審査から二次審査と四国支部の皆さんには、毎度のことながら大変お世話になり、本当にありがとうございました。
応募作品は公立学校、宿泊施設から小住宅、農家の改修まで多様なものがあり、また立地も四国山地から太平洋を望む浜や瀬戸内の島など、バラエティに富んでおり、いずれも楽しく拝見しました。四国の中でもそれぞれに対照的な気候・風土をもち、作品にもそれが反映されていたと思います。また今回は特に、各々の土地での暮らしを楽しむための工夫がなされており、使いやすく快適だというのとは異なる、住み手や使い手が建築家と協働して生んだ「郷土の建築」を感じました。
現地に赴いた10作品のうち7件が木造、さらに他1件も屋根架構に木造が採用されていて、前回と同様に木や木質のデザインに優れたものが多かったです。中でも大賞に選ばれた《大豊町立大豊学園》では、今日では一般化しつつあるCLT木造を、一歩進めて貫構造を組み合わせて非凡な空間を生み出すなど、伸長著しいものがありました。
改修作品2件では、一方が愛らしい屋根の小さな農家に移住、他方が既存施設に2階部分を増築するという、規模も内容も対照的なものでした。優秀賞となった前者では立地する斜面と一体化した景観が素晴らしく、後者では新たに獲得された2階からの眺望がよかったです。
住宅の中で、もう一つの優秀賞《番町の家》は、長年にわたり関西で高質な和風住宅をつくる建築家が香川で手がけたもので、細部にまで行き届いた感性が見事であり、職人を育て、文化を継承する意味合いでも大切な仕事だと思います。
その他の優秀賞や佳作の作品も含めてそれぞれに独創性があり、魅力的な作品と感じました。今後の一層のご活躍をお祈りします。

-審査員長 古谷 誠章

■審査経過レポート
第5回四国建築賞は、建築部門に一般建築20件、住宅11件の計31件、業績部門に1件の応募がありました。7月31日高知市の自由民権記念館・民権ホールに於いて応募者参加セッションと公開審査会を行い、現地審査対象作品を一般建築6件、住宅4件に選定しました。現地審査は9月10〜11日、25日、10月2日に行いました。その後10月3日に審査会議を行い、賞の趣旨に基づいた厳選な審査の結果、大賞1作品、優秀賞3作品、佳作6作品の受賞が決定しました。また業績部門応募の1件については、9月29日に四国建築賞実行委員による審査会議を行い、賞の趣旨にふさわしい活動であると評価され業績賞に選定されました。
-四国建築賞実行委員会 委員長 鈴江 章宏

審査結果

大賞 大豊町立大豊学園
大賞 大豊町立大豊学園
所在地
高知県長岡郡
用途
小学校・給食調理場 保育所
構造
木造
敷地面積
6,265.39m2
延床面積
3,251.992
施工
有限会社藤川工務店
竣工年月
2022年3月
設計主旨

 四国地方ほぼ中央に位置し、県境山間部である大豊町。山々に囲まれ、高知の林業基盤を支える豊かな森林圏。一方で、渓流吉野川と並走する道路以外は急傾斜地が多く平地が少ない。日本一と名高い「大スギ」そばにある大豊小学校や保育所も、急傾斜危険エリアにも立地し、教育施設として厳しい立地条件であった。そこで、大豊町は、限られた平地の一つである大豊中学校のグラウンドに、「小学校・保育所・給食センター」を整備し、少子化をはじめ様々な現状課題のため小中一貫義務教育学校が竣工した。
敷地条件は既存中学校・体育館の隣接残地であるL型形状。南北軸に小学校を木造二階建で整備し、南端に給食センターとした四つの連棟をもつ棟1。同屋根勾配で景観統一を持たせた保育所を平屋建てで棟2とした。棟1の階構成は2階に一般教室をまとめ、1階に他のすべての諸室を集約させた。2階教室群について、教育現場として南面教室の北廊下配置が一般的に多いが、南北敷地のためフィンガー配置とし南北主廊下に直交で2教室を設け、教室の南北には廊下を兼ねた多目的利用スペースと屋外デッキ空間を整備させ、自然授業と異年齢を交えたコミュニティの形成の自発を促した。
 大豊町は県下屈指の林業圏である。構造架構については、大豊町はCLTラミナ工場があるため、木造躯体さらにCLTを利用するということがプロポ条件でもあった。また規模的にもJAS構造材が必須条件である。棟1の小学校は木校舎として、自然採光を取り入れ、構造躯体が意匠上素直でそのまま現しとし、どっしりと落ち着きがあり力強く粘りのある木架構を目指した。伝統技術である貫工法を現在の先導的木材で行うことを考え線材と面材で抜けのある耐力壁、CLT貫工法を開発した。一方、棟2は、集成材と製材で構成し、17mスパンのワンボリュームを実現させている。自然採光と通風、深い軒の出、交換できる外壁、床輻射式冷暖房、ZEBの採択も受けている。過疎化による少子化の今、生まれ育ったこの地で、保小中の充実した教育、校舎家具など林業をはじめ地域産業の様々な出口も見て育つ地域の学校、ソーシャルデザインでもある。

講評
この作品の最も印象的なところは、これまでCLTを用いた木造作品というと、とかくCLT架構が主役になり過ぎて、空間そのものが重苦しくなりがちなものですが、ここでは貫構造の軸組の一部となることで、空間に抜けが生まれ光が通るため、非常に爽快な、まさに学舎にふさわしい環境が生み出されたことにあります。教室の妻面にあたる本来塞がれた壁になるところでも、廊下側では貫の間に鏡を入れて騙し絵的な透明感をつくり出しているのも、ここでは嫌味に感じられず不思議にうまくいっていて、微笑ましいです。作者が長年取り組んできたCLT建築に新境地を開いたものとして、その継続的な努力とジャンプ力を評価したいと思います。                                                  
-古谷 誠章

小学校棟は、日本建築の伝統構法である「貫」(桧集成材)と「合せ柱・壁柱」(杉CLT)によって構成されている。構造は、楔や込栓で固定することでモーメントに抵抗させ、壁柱で水平力を確保したと見られ、構造体によって水平・垂直の連続性と透明感とを保ちつつ、程良い機能空間を生み出していると感じた。また、「だまし絵」のように部材間に鏡を用いることで、空間のつながりを生み出したことには驚いた。加えて、教室間のデッキや手摺のように、設計者が生徒たちの動きを隅々まで把握した操作が随所に見られた。故・松村正恒氏が生徒同士の挨拶を生むためにデザインした、背板のない下足箱も効果的に活かしている。保育所棟の大屋根下の保育室・遊戯室・職員室の空間の関わりも、心地良さを感じた。
-多田 善昭

保育所から中学生まで大豊町の未来を担う人材を育成する館にふさわしい明るい木造建築物。連棟屋根でボリュームの分節を図ることにより、自然採光、通風を確保し、児童が教室、デッキどこにいても気持ちのよい空間になっている。伝統技術である貫工法をエンジニアリング・ウッドで行う方法を開発し、中大規模建築物への新たな木材需要の開拓という点でも地域産業である林業への貢献も大きい。小学校棟に保育所のランチルームを取り入れることによって、保小の連携空間として期待できる。保育所は小学校棟と同じ同じ屋根勾配で景観的に統一された平屋建てで、屋内の土佐和紙のルーバーが空気の流れによって緩やかに動くさまも変化があってよい。
-松村 暢

優秀賞 番町の家
優秀賞 番町の家

撮影:松村芳治

所在地
香川県高松市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
430.35m2
延床面積
296.55m2
施工
株式会社 藤木工務店 四国支店
竣工年月
2021年6月
設計主旨

 昨今の省エネや耐震性への関心の高まりによる諸条件の変化の中で、失われつつある茶の湯文化から生まれた数奇屋建築が持つ独特の美しさを私なりの感性でこの建物に生かしたいと思って設計し、また、和の美意識を感じることができる住まいを作りたいと望む建築主との恵まれた出会いによって、実現した住宅でもある。

 私の住宅設計作法
建築主との会話の中から生活スタイルや価値観を引き出して、その家族にとっての最適な空間のあり方を模索し、敷地の条件や周辺環境を注意深く読み取りながら配置や平面をイメージする。最初は粘土で塊を作り、それを切ったり貼ったりしながら建物のボリュームを模索する。次に100分の1程度の模型を作り具体的な形状の検討を行う。図面と模型の縮尺を上げていき、スタディーを繰り返すことで純度を上げ、輪郭をはっきりとさせていく。
方針が決まれば、素材・色・詳細な寸法など空間に関わるデザインは概ねお任せいただくことになる。
現場において、重要な部分は原寸で図面を描き、モックアップを作成し確認し、職方と共に検討しながら創り上げていく。

 4つの中庭
敷地は間口に対して奥行きが深いことから、各部屋に適した4つの庭を配置することで内部と外部が絡み合い、風の道をつくり、光を取り込む平面構成になっている。
 和庭は道路際の高塀の中に和室に独立させ、車庫・和室棟と居間棟の間に植木を鑑賞・体験できる中庭、居間棟と寝室・子供部屋棟の間に自由に遊べるデッキ庭、浴室と台所の間に光庭、と4つの庭にそれぞれの役割を持たせている。

 前面道路に面する車庫棟和室棟の屋根は和室との調和を考え瓦葺きとし、瓦の質感と風格が家の顔になれば、と考えた。それぞれの庭にあわせて庇の出、開口寸法、障子の表情などを決め、外部からの視線を遮りながら、安心して庭を楽しめるよう生活空間を創り出した。

講評
江戸時代の武家屋敷の名残が感じられる街路・敷地条件の中、優しい暮らしの提案が展開されていると感じた。まず、玄関正面の一枚塀のように、独自の手法で住まいのプライバシー性が保たれている。また、居室の間口は、庭園に配置された自然との共生を感じさせる機能的な高さにしつらえられており、目線の高さによって生じる空間の印象の差異が心地よい。様式の異なる内部空間同士も連続的に連なり、庭園から内部空間全体へのグラデーションを見事に演出していると感じた。
日本の風土が生み出した伝統を基に、職人の技と共生しながら生みだされた世界は、「優美」という表現が最も相応しいだろう。
ディテールによって素材を活かし、空間を構成することで表れた住まいの固有性は、設計者の取り組みの賜であろう。
-多田 善昭

優秀賞 茅葺き農家再生住宅 − ギャラリーをもつ家
優秀賞 茅葺き農家再生住宅 − ギャラリーをもつ家
所在地
徳島県徳島市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
581.24m2
延床面積
105.55m2
施工
株式会社アズマ建設
竣工年月
2021年12月
設計主旨

廃屋になって15年、放置されていた築130年の茅葺き農家住宅を、住まい兼ギャラリーに改修する。

新たなライフスタイル
里山集落は限界集落化し、自然と共生する魅力的な環境を失いつつある。建築主はこの集落とトタン葺き茅葺き屋根の佇まいに惹かれ、住まいにしたいと15年かけて購入する。改修後、近隣の清掃やご近所付き合いを大切にされ、失いつつある伝統的知恵や環境の美の価値を暮らしに活かし、人が集う新たなライフスタイルを築いている。

敷地にあるものを活かす
腐っていたほとんどの柱を取り替え、梁組を生かし、カヤと相性の良いセルロースファイバー断熱材で茅葺きを補修する。敷地から出た瓦や石材、柿やマキ囲い等の樹木や下草を主に庭や外部空間をつくる。

前庭緩衝空間は山の住まいの核
緩やかな傾斜地であるが、この住宅も四国山地の高地性集落民家の環境の仕組みがある。
等高線に沿った細長い敷地に、住まいは切土部分の山側に寄せ、石積みで支える盛り土部分は前庭とし、農作業と人や食が交わる暮らしの場にする。前庭に表座敷が接し、裏側は茶の間から闇の寝室へと配置される。昼から夜の空間への光と、公から私へのプライバシー度のグラデーションがある。ワンドした地形の奥に建物を配置することで、東西からの強風を避ける。山から谷、谷から山に吹く気流は、茅葺き屋根と前面石積みの高台によって強風が抑制され穏やかな風となる。前面石積みと前庭が太陽エネルギーを一番受け、心地よい緩衝空間になる。この構造を活かして、周りの風景とつなげる庭と縁側、ギャラリーを兼ねた続き間の広間、
裏庭と繋がったキッチンと静謐な寝室空間を配置する。地形や自然との関係と、視線が通い合う集落コミュニティを意識した空間に再構成する。 

五回のギャラリー開催
一宮城址のある裏山と緩やかな山に囲まれ、蛍が乱舞する川が流れ、水田や田畑を見渡せる場所に、新しい風を吹き込む。

講評
徳島市一宮町の山中に建つ古民家の改修で、このあたりの家々の持つ可愛らしくカーブを描く茅葺き屋根が気に入った住み手が、この集落を選んで移住したものです。この土地での暮らしは「のどか」の一言に尽きますが、この家の持つ内部空間の適度な緊張感は、周囲の眺めと一体となって、とても居心地よく体に馴染んできます。吹き抜け越しに見上げる小屋裏の架構や、黒い床と白い壁、白木の建具などの造形的なバランスが住み手のセンスを感じさせますし、建築家がそれによく応えているように見受けました。素晴らしい協働作品です。近所の農家の住人たちとも馴染みとなって、穏やかに交流している様子がとても印象的でした。
-古谷 誠章

優秀賞 WAKKA
優秀賞 WAKKA

撮影:新建築写真部

所在地
愛媛県今治市
用途
観光拠点施設
構造
木造
敷地面積
3,995.67m2
延床面積
602.37m2
施工
株式会社丸馬銘木
竣工年月
2020年3月
設計主旨

 瀬戸内海に浮かぶ島々を渡り尾道と今治を結ぶしまなみ海道は、美しい景観で知られ、国内外から多くのサイクリストが集うサイクリングの聖地とも称される。
自身もサイクリストであり、瀬戸内にルーツを持つ建主は、この素晴らしい環境をより多くの人々に楽しんでもらうため、サイクリングをはじめとするさまざまなアクティビティをサポートする拠点をつくろうと決意、全長70kmに及ぶしまなみ海道のちょうど真ん中に位置する大三島をその地と定め、東京から移住した。
敷地は海に面し、向かいの生口島と多々羅大橋の壮大な景色を望む好立地。この景色と瀬戸内の穏やかな気候を存分に楽しんでもらうため、室内は最小限として、床面積の半分以上を半屋外空間とした。一方で、国道に面する間口は狭く、海までは100mあり、隣地も海側はコンクリートの護岸、北側は荒涼とした砂利敷の空地、南側の民家へはプライバシーの配慮を要するなど、シークエンスを主軸とした丁寧な設計が求められた。
そこで、敷地近くの大山祇神社にも見られる回廊を参照。管理棟、水まわり棟、カフェ棟と各機能に応じて形態を変えながら細長い半屋外空間を南側敷地境界に沿って繋げていき、植栽帯を挟んだ敷地北側には、コテージとドミトリーを多々羅大橋への軸線に合わせて雁行して並べ、敷地を柔らかく囲いながら海へと開く配置とした。これにより、隣地への視線を限定しながら、海への期待感を高めるアプローチとし、また、カフェのひな壇状の床レベルや、コテージを高床にして盛土のスロープで地上と連続させるなど、海との距離感は縮めながら、人と人との距離感は適度に生まれるような断面計画とした。さらにスロープやバイクハンガーなど自転車のための設えと、空間的余裕を大きくとることによって、敷地内の至るところが人と自転車が共存する場所となり、サイクリストもそうでない人も思い思いにゆったりとした時間を過ごせる場となるよう意図している。

講評
細部に至るまで自転車愛にあふれた建築物。カフェ棟、宿泊棟にMy自転車と同伴できるよう設計され、雁行型の宿泊棟の自室からは自分の自転車越しに風景が眺められるように工夫されている。入口からカフェへの回廊は、絶景の期待を膨らませる導入部として機能している。車いす利用者もスムーズに奥のカフェ空間まで移動することができ、そのままテーブルで休息できる点も秀逸である。回廊の脇は、あえて作りこまないことにより、滞在者の思いのままに気軽に使える境内のような自由空間として存在している。入口のレセプション付近の休憩スペースはサイクリストや旅行者の交流の場として開放的な空間になっている。今後の集落の交流、島の観光を担う拠点として期待したい。
-松村 暢彦


佳作 勝浦町立勝浦中学校
佳作 勝浦町立勝浦中学校

撮影:(株)エスエス

所在地
徳島県勝浦郡
用途
中学校
構造
鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
敷地面積
24,160,27m2
延床面積
5,580,86m2
施工
戸田建設株式会社
竣工年月
2012年10月
講評
武道館・特別教室棟は杉板型枠によるコンクリート打放し壁と杉板パネルとで統一的に構成され、それらに挟まれた普通教室棟は、勾配屋根と庇、天然木によるデッキで構成されており、建築全体が南北の山並に調和することを意図しているように感じられた。金属と杉板の組合せに配慮された手摺も、空間に繋がりと暖かさを与えていた。
視覚的に少々ざわつきを感じるものの、杉板型枠材再利用への挑戦は評価したい。勝浦町の暮らしの記憶を語り続ける長寿命建築を目指した作品だと言えるだろう。
-多田 善昭

佳作 地域交流拠点「箸蔵とことん」
佳作 地域交流拠点「箸蔵とことん」

撮影:笹倉洋平

所在地
徳島県三好市
用途
物品販売店舗・事務所・飲食店・作業場・倉庫
構造
鉄骨造
敷地面積
2,772.66m2
延床面積
1,305.56m2
施工
有限会社米倉建設
竣工年月
2019年3月
講評
三好市池田町の産直と交流施設からなる複合施設。平屋の既存棟に2階を増築していますが、構造を分離して下部構造に負担をかけず、また2階部分を独立した切妻型の造形として浮かせた点が、この建築のキーコンセプトとなっています。1階を鉄骨現しで倉庫か市場のような空間としているのに対し、2階では一転して総木質の内部空間とし、さらに屋根架構から床を吊り下ろすことで構造材を最小化して、その対比を鮮やかにしています。
-古谷 誠章

佳作 桂浜公園 本浜休憩所
佳作 桂浜公園 本浜休憩所

撮影:上田宏

所在地
高知県高知市
用途
休憩所
構造
鉄筋コンクリート一部鉄骨造
敷地面積
110,050m2(桂浜公園全体)
延床面積
186.49 m2
施工
株式会社 トラスト建設
竣工年月
2021年12月
講評
松林と本浜・太平洋をのぞむ景勝地としての桂浜の風景を活かすために、色彩やボリューム、眺望などに配慮された、心地の良い居場所つくりが意図されていると感じた。杉板型枠によるRC構造と漆喰壁との構成、反り上げた軒裏と垂木天井との構成に、作品としての魅力を感じた。照明も、眺望のために足元へ配置したのは見事であった。
強いて言うならば、来訪者が屋上に上がり、豪快な太平洋を見るまでの一連の動線計画にドラマが加われば、更に作品の魅力が増しただろう。
-多田 善昭

佳作 鏡小浜の家
佳作 鏡小浜の家

撮影:DAICI ANO

所在地
高知県高知市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
195.09m2
延床面積
119.59m2
施工
株式会社建築工房縁e
竣工年月
2014年10月
講評
畳の間、囲炉裏の間、家族の間が平面的、立体的に一体感のある設計で、どの部屋からも鏡川の清流を眺めることができる空間構成を採用している。竣工時にはなかった薪ストーブができるなど、竣工後の施主と建築士の7年間の時間の蓄積がこの建築物の味わいを深めてきた。こうしたプロセスも含めたすぐれたデザインの建築物ができることで、その周辺に価値観を共有する人たちが集まって、まとまりのある集落景観を形づくった好事例。
-松村 暢彦

佳作 遊山四万十 せいらんの里
佳作 遊山四万十 せいらんの里
所在地
高知県高岡郡
用途
宿泊施設
構造
木造
敷地面積
3,893m2
延床面積
345m2
施工
新進建設株式会社
竣工年月
2021年6月
講評
石積みが秀逸。地域の人々がつちかってきた田畑や住居の石済み技術を四万十川沿いの石を再利用して作られた石積みが周囲の風景になじませながら空間をわけている。レストランのどの席からも調理室で働く地域の方々の姿を眺めることができ、地域産材が使われた内装の雰囲気もあいまってあたたかい空間を作っている。宿泊棟は四万十川側に大きな開口部を設けて、縁側に座椅子を持ち出すこともでき、自由な過ごし方を可能にするすぐれた設計。
-松村 暢彦

佳作 House  KJ  輪郭と線
佳作 House  KJ  輪郭と線
所在地
愛媛県伊予市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
252.5m2
延床面積
100.9m2
施工
株式会社 川下建設
竣工年月
2022年4月
講評
極端な旗竿敷地ながら、その旗竿の部分にさらに細長い居住空間を配置しています。しかし、内部機能に合わせて巧みに開口部をとり、敷地境界までの空間を最大限室内に取り込むことで、狭隘さを感じさせない奇跡的な空間を生んでいます。外観からは積み木細工のように見える建物のボリュームは極めてシンプルに抑えられていて、近接する隣家などに圧迫感を与えていないのも、設計者の技量を感じさせました。
-古谷 誠章

佳作 八幡浜芸都+こども・けんちく学校
佳作 八幡浜芸都+こども・けんちく学校
■事業趣旨
「八幡浜芸都」は、愛媛県八幡浜市にあるものを活かして、ないものをつくっていき、八幡浜をアートで育てていくプロジェクトです。ワークショップ、アートディレクター北川フラム氏をお招きしての市民講座、アート制作を通して八幡浜の良さを再発見し、八幡浜への愛着につなげています。2010年度は、市内の公園に、かまぼこ板を使ったアート(東屋)作品をコンペ形式で公募し、設計者と八幡浜市民の協働で制作。自ら設計競技により設計者を選定する方法を紹介し、その後の八幡浜市の公共建築における設計競技による設計者選定へ繋げた。
「かまぼこカーテン」完成披露会では、日本大学の学生さんたちが、こども向けにかまぼこ板を使った家具作りのワークショップを開催して人気を博した。その後、八幡浜みなっとの指定管理業務のイベント業務の中で「こども・けんちく学校」を毎年開催し、たくさんのこどもたちに、環境や建築のことを楽しく学ぶ機会を創出中。また、「八幡浜芸都」のコンペ第二部門で募集した「かまぼこ板」を使った椅子(日本大学生考案)を第4回こども・けんちく学校でもこどもたちと一緒に制作。コロナ禍においては、小学校の総合的な学習や図工の時間への出張授業として開催。今後も毎年継続予定。
講評
本プロジェクトはアート制作を通じて、八幡浜市の良さを再発見し、育てていく市民参加型のまちづくり・まちおこしのプロジェクトで、その一環としてこどもたちと環境や建築のことを楽しく学ぶ「こども・けんちく学校」を継続的に開催されています。建築家の知識や職能を活かしたまちづくり活動として以下の4つ点について評価いたしました。
1.地域の景観づくりへの貢献
道の駅「八幡浜みなっと」の敷地内にコンペ形式で募集し、市民参加で完成させた「かまぼこカーテン」は、八幡浜の名産品かまぼこの板を利用し、地域の良さが引き立つようなユニークなアート作品で、市民や観光客が集まる道の駅の広場の景観づくりに寄与している。また、この成功から公共建築である八幡浜みなっとトイレ棟、大島交流拠点、保内児童センター・保育所の設計競技化につながり、地域のシンボルになるような優れた建築が生まれ、景観づくりの実現に貢献している。
2.住民の参加や交流
世代を問わず住民が参加できるワークショップや市民講座、こども・けんちく学校を開催し、大人から子供までアートを通じて環境や建築について学び合う交流の場を生み出している。
3.地域の魅力の創造・保全・育成
地域資源を活かした新しい地域の価値の創造・育成、地域の伝統や産業を大切にした学びの場を提供している。
4.活動の発展性と継続性
2010年のかまぼこ板アートのプロジェクトから始まり、2013年からはこどもけんちく学校の開校。アート制作を通じて地域、生活空間、建築を学ぶことを継続され、応募時点で第11回を数えている。内容についても毎回趣向を凝らし、充実した内容で継続されていることは特筆すべきことであると考える。
以上のことから、JIA四国建築賞の業績賞にふさわしい業績であり、引き続き今後の活動に期待いたします。

-四国建築賞実行委員会 実行委員長 鈴江 章宏