第3回四国建築賞2018
趣旨
 建築家は、その業務において文化を継承、創造し、自然環境をまもり、 安全で快適な環境つくりを目指し、人々の幸福と社会文化の形成に寄与しなければなりません。JIA四国支部ではJIAの建築家憲章の理念に基づき、四国4県に造られた建築作品、群、あるいは活動において、特に4県それぞれの四国らしさ、 すなわち社会性、歴史性、文化的文脈が受け継がれ、昇華されたものを顕彰する目的で四国建築賞の制度を設けています。本賞は、JIA会員のみならず、優れた建築文化や環境形成、地域の発展に寄与した建築作品を設計し、地域活動を展開されている建築家、個人、団体を幅広く募集、顕彰いたします。

応募対象
2008年1月1日~2018年3月31日 四国内に完成した建物または活動
応募登録期間
2018年5月1日~6月30日
趣旨
建築部門
審査員長
古谷 誠章氏(早稲田大学教授 / 有限会社ナスカ 代表取締役)
審査員
山本 長水氏(日本建築家協会名誉会員)
審査員
田處 博昭氏(日本建築学会会員)
審査補佐
各地域会本委員会委員 1名
業績部門
審査
審査員 および 本実行委員会
審査経過レポート
 四国建築賞も第3回を迎え、一般建築17作品、住宅作品6作品、業績部門1作品がノミネート、8月31日香川県サンメッセに於いて応募者参加セッションと公開審査会を行い、現地審査対象作品を一般建築部門8作品、住宅部門1作品に選定。10月2日3日と二日間にわたって現地審査を行った。賞の趣旨に基づいた厳選な審査の結果、大賞1作品、優秀賞3作品、佳作5作品がそれぞれ受賞した。いずれの作品もこの賞の趣旨が反映されたものであることを確信し、四国四県それぞれ地域に根ざしながら今後現れる建築の指標になれば幸いである。

総評

 審査をお引き受けして3回目となった今回の候補作品は、水準に大きな開きがなくいずれも優れたものでした。四国の建築家が大勢でありますが、四国外からも特に若手を中心に意欲的な応募作があり、世代的にもバラエティに富んでいたといえます。四国からも多くの若い世代からの応募があったのは大いにうれしいことです。
 3回を通して徐々に分かってきたのは四国が四つの県からなる比較的小さな地域でありながら、四者四様に特徴のある独特の地域性を持っていることですが、今回はさらにそれらが良い意味で相互に作用しあっているということです。大昔から激しい台風と向き合って高知では、「雨は下からも降る」といって用心するのに対し、温暖で比較的雨風の少ない瀬戸内側では吹き降りや結露に対して鷹揚に構えていると言った具合ですが、それでも豊後水道側で時折台風の入り込む愛媛とそれも少ない香川には違いがあり、また山、川、海が揃い、その全ての要素をもつ徳島は、時に高知、時に香川に倣った構えを持っているように見えます。
 しかし、温暖化により何が起こるかわからない最近の気候変動を見ると、それぞれ今までの知恵だけで安泰というわけにも行きません。そこで四国の四県がお互いの知恵を分かち合うことに大きな意味が出てきます。逆にその意味では、お互いの身近に頼もしい相談相手がいるようなものですね。なかなか得難いことだと思います。四国の中で互いが結びつき、四国以外とも交流する、四国建築大賞の意義はそんなところにもあると思います。
 そんな中、今回も二日間をかけて瀬戸内の島々から徳島、高知は宿毛まで、計9作品を見て回りました。弓削島から徳島へはなんと本州側の広島、岡山を通っていくとは思いませんでした。小さいとはいうけれどやはり四国は広いですね。

審査結果

大賞 Nuki-House
大賞 Nuki-House
所在地
高知県高知市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
106.40m2
延床面積
126.89m2
施工
Shinahara建築工房
竣工年月
2017年3月
設計主旨

 高知市内に建つ設計者の自邸である。高知県内には、豊富な木材とそれを扱う大工技術、土佐漆喰と高い技術の左官職人、土佐和紙などの特徴ある建築技術が存在する。これらを何の縛りもなく自由に表現することで、高い伝統技術の継承と新たな建築空間の提示を行う、またとない機会だと考えた。設備機器、建具金物以外の既製品は用いていない。既製品と鋼材以外はすべて地場産材である。高知県産材を用いた職人手作りの家としながら、ダイナミックな空間構成、パッシブなエコハウスを目指した。この住宅は、「高知ならではの実験住宅」である。敷地は前面道路より、約2.5m高い位置にある。敷地面積は約30坪である。この高低差を利用して、コンパクトなスキップフロアによる地下1階地上2階建住宅とした。地階をRC造とし、堀車庫を確保しながら、コンクリートのトンネルを通って建物に入るアプローチを確保する。地上部分は木造として、在来軸組に貫工法、竹小舞を用いた土壁を採用した。南面は、職人の手作りによる木製カーテンウォールとし、太鼓張り土佐和紙障子による光壁とした。貫は意匠の核となっている。土壁の仕上げには、内部は漆喰に骨材を混ぜたものを洗い出す仕様を考えた。土壁は外断熱として、コンクリート面とともに熱容量を発揮させた室内の適温保持を試みた。地階から地上2階までを同一空間として空気的に連続させ、空気を循環させている。壁掛けエアコンを床下に設置してこの家唯一のエアコンとし、中間ダクトファンと併用しながら室内の夏冬の適温を確保している。夏季は、2階部分より強制排熱させ、地階の光庭より冷たい空気を建物内に取り込んでいる。家具は高知県産材を用いたオリジナル家具である。地場産材、伝統技術をふんだんに用いながら、現代を先取りする感性を表現することを試みた。今後、時間をかけて生活をすることで実験を検証し、これからの設計に採用すべきことを採用し、反省すべきことを反省していく。

講評
 甲乙つけがたい中で頭一つ抜け出していたのが、この設計者自邸です。隣接する父の自邸に対して、それとは別の試みをとのことでしたが、まごうことなく遺伝子が受け継がれ、結果としてよく調和しています。それ以上にまち並みに貢献するのが前面の開口部の扱いで、障子越しの柔らかい灯りがおそらく夜には温かい行灯となって通りを照らすであろうことです。屋内では土塗り壁などに実験的な創意が凝らされ、各所の納まりにも密度の高い工夫があって、非常に成熟した建築の質を感じました。唯一の謎はこの家のタイトルにある「貫」の存在が、これもかなりの実験が試みられていますが、やや補助的であること。でもとても気持ちがこもっています。
―古谷 誠章氏

 日本一雨が多く、多湿な高知県で、機械に頼るだけではなく、歴史が伝えてくれた、木、土佐漆喰、土佐和紙を主役に取り上げて、若い夫妻の感性にいかに添わせるかを考える。余計な口出しをするものは他にはいない。幸せなひと時だっただろうと、自ずと笑みを覚えるところである。特に土壁の持つ潜熱を含む熱容量の大きさと、貫と一体になって粘りづよく地震に抵抗する性能を評価して壁の主役に取り込むことや、量産された既製品を極力使用しないとする考え方も、来たるべきポストモダンの方向を模索する者として同感するところである。ただ一つ敷地は山の南斜面であり、陸屋根では落ち葉なども留まって、酸性雨が濃縮されるし、将来、太陽の活用も予想される含みを持たせて、お隣と仲良く、南下がりの片流れを選ばれるのが良かったなと言うのが老人の願いである。
―山本 長水氏

 敷地は、南向の急傾面地で東西に走る接道も坂道で、北側に位置する。軒並1階が車庫となっている。道上側の路地を通り、車庫裏側が玄関・階段と続く。階段の北側は、半階ずらした床と天井高を控えた室が並ぶ。車庫上には、天井の高い1室のDKとなっている。路地・玄関・階段が風邪の道として構成され、各室に流れ込んでいる。何と言っても、DK南面全てガラスで、割付は、上下2段・方立は梁と同寸割。日差対策に内障子を備えて、明るく広々としている。夜景は、宙に浮かび上がった大きな行灯に変容し、外灯のない接道を道案内する。
―田處 博昭氏

優秀賞 一般建築部門 海のコテージ
優秀賞 一般建築部門 海のコテージ

撮影:中村絵

所在地
愛媛県今治市
用途
宿泊施設
構造
木造
敷地面積
391.62m2
延床面積
86.54m2
施工
菅法生建築
竣工年月
2016年5月
設計主旨

 大三島に移住してみかん栽培と養蜂を営む農家夫婦が、自邸に隣接する民家を建替えてつくる滞在型の宿泊施設です。観光客が名所を巡り島を通り過ぎていくのではなく、 島の自然や暮らしを味わうための居場所が求められました。
 情報に網羅され、 世界中から物資が輸送される今、 土地固有の風土や場所性が見直されつつあります。 それは風景であったり、 コミュニティであったり、 簡単に何処か別の場所へ持って行って体験することができないものです。 私たちは大三島の暮らしに触れて、この場所にしかない「現代の民家」 をつくりたいと考えました。 プロジェクトを通して島の中で人やものが巡る小さな循環を産み、また島の環境に素直に寄り添ってつくることで、大三島ならではの風土を受け継いでいきます。
 「もの」と「こと」の循環をつくる
 大三島は大山祇神社を擁する神様の島です。そのため古くから殺生が禁じられ、人々は農業を中心とした産業を営んできました。収穫期に助け合う結の文化は未だに息づいており、あるものを分け合ったり手を貸しあったりすることが当たり前に行われています。プロジェクトではその文化を可視化し継承していくために、建具や石など島で手に入る建材を活用し、もらったり譲ったりすることで「もの」の循環を生み出します。また人手や場所を借りながら、なるべく自分たちでつくることで「こと」の循環を生み出します。
 島の環境に寄り添ってつくる
 プロジェクトの敷地である宗方地区は、大三島の南にある小さな集落です。敷地は島を一周する県道から海へと下る途中にあり、急勾配のみかん畑に囲まれています。また、敷地からは、多島美の美しい瀬戸内の穏やかな海に向かって大きく視界が開けており、大三島ならでの眺望を楽しむことができます。
 計画にあたっては、このような豊かな島の環境に寄り添うような建築のつくり方を意図しました。屋根は斜面地の傾斜と馴染むような片流れ形式を基本としました。海側の軒を低く抑えつつ、一部の屋根を跳ね上げて空を望む特別な場所をつくっています。海側に向かう間口は、6間分全てを木製のガラス框戸として、海に向かって大きく水平に広がる眺望を獲得します。
 また、海を見晴らすことのできる木デッキの桟敷や、桟敷と客間に囲まれた土間など、レベル差のある構成によって、一体的な屋根下の空間の中に、個性の違う居場所を生み出します。

講評
 一念発起してみかん農家として移住されたクライアント夫妻の、この土地での新たな試みに若手の建築家が挑んだ意欲的作です。大三島の恵まれた風土を堪能するためのゲストハウスで、のびやかなその風景に溶け込み、また眼前の眺望を満喫することができます。東京からきた設計者夫婦自らがその環境を享受する楽しみが身をもって表されています。いい意味でストレンジャーであるからこそ提案できる、非日常の滞在のための空間だと言えるでしょう。
四国のベテラン審査員からは、そのナイーブな納まりに多少眉をひそめられる部位もありますが、その辺りは地元をよく知る協力者を得て、これからもこの作品と末長く付き合って行ってもらえればと思います。
―古谷 誠章氏
優秀賞 一般建築部門 オゥ・ポワヴル
優秀賞 一般建築部門 オゥ・ポワヴル

撮影:北田英治

所在地
徳島県板野郡
用途
洋菓子製造販売店
構造
木造
敷地面積
1,946.12m2
延床面積
357.30m2
施工
株式会社 アズマ建設
竣工年月
2010年6月
設計主旨

木陰の下に拡がる地域の店舗空間
 高度成長期に徳島の工業地帯となり、現在では数少ない人口が増える町の新興住宅街に計画した洋菓子製造販売店である。地域素材の魅力や町に貢献できる緑の環境を育むことを意識する。建築主は、緑の中で作り手と客の目線が通い合い、地域特産の新鮮素材を使ったお菓子がどのようにつくられるのか、香りを楽しみながら、子供からお年寄りまでコミュニケーションができる店空間を目指す。
 地場杉材の平角柱が連続する架構で、ブティック(販売)部門と主製造部門の空間をつくる。木造軸組みを保護し、木材の調湿効果などを発揮させるために屋根、壁、床下の通気性をもたせる。高い二つのヴォリューム棟に1.6mの軒を廻す。軒先空間の二階南・西面には従業員のためのテラスを設け、東・北面は広場を囲む。
 木造フレームで囲んだ正方形の広場の中心に、大空へと伸びる樹高9mのシマトネリコの樹を四本植える。地元吉野川水系の砂利を敷き詰めた広場に落ちる木漏れ日は、夏はすがすがしい風を生み、春と秋は木々の間から陽光が差し込む。街路樹のヤマモモと敷地の樹木が引き立てあうような植栽配置をし、緑の歩道空間が拡がるようにする。樹木の成長に伴って、冬は風をさえぎり少ない町の緑に潤いを与える。植物は四季を通じて表情が変わる。建築の環境形成の中心性を、建物でなく樹木に据える。

講評
 作品は、洋製菓店です。施主は、作業場も売場も区別なく一体とし、作業を見学しながら購入も可能な新店舗を構想したのだ。が、衛生面の考慮を指導する保健所とのせめぎ合いの結果の作品です。
作業場と売場の隔て壁をガラスとし、互いの動きを確認及び目線も合わせられる様に工夫された、新たな洋菓子店となっている。作業場上階は、倉庫等に加えテラス付従業員休憩室を設けている。
―田處 博昭氏
優秀賞 一般建築部門 レストランengawa
優秀賞 一般建築部門 レストランengawa

撮影:川村公志

所在地
高知県高知市
用途
飲食店
構造
木造
敷地面積
1,397.42m2
延床面積
185.70m2
施工
四国プレコン 株式会社
竣工年月
2016年11月
設計主旨

 オーナーシェフの祖父が所有し、開発から取り残されていた水田跡地に既存店の2号店として計画された。郊外型レストランということから駐車台数の確保、近隣店舗との関係について検討を重ね、思った以上に騒々しい西側アメニティ道路や近隣店舗の喧騒への音対策を施し、隔絶された空間を目指した。合わせて計画当初からクライアントより「えんがわ・中庭」のキーワードが提示されており、全ての客席より伺える中庭を囲む凹型の平面が導き出された。
 外観は広がりのある平面、メンテナンスの容易な低く構えた平屋、1号店とは異なるカフェ要素が入ってくる、などからあえて軒を出さず、大屋根を回り込ませた愛らしくシンプルなシルエットとしている。 
 大屋根建築の外郭ラインは樋により煩雑になりがちだが、建物がアメニティ道路に長く面する事からスッキリしたシルエットを目指し、軒樋は雨漏りを誘発しがちな内樋ではなく可能な限り屋根と一体に見えるようディテールの検討を重ね屋根先端部に設けている。また縦樋については「本数が多い→目立つ→隠したい→でも雨漏りは怖い」の葛藤のなか壁に埋没させた開放樋とする事で存在を消しつつ、メンテナンスの容易な納まりとしている。 
 中庭に面し二つに分かれる客席は少し異なるしつらえとし、中間にパントリーを設け、貸し切りなどいくつかのシーンに対応可能としている。
 床仕上げを堅木フローリングとした手前客席では、中庭えんがわを覆うように掛け渡した垂木を内部に引き通すことで天井のほどよい抜け感を演出し、ただただ天井の高い建物にありがちな落ち着きのない空間ではない柔らかな空間としている。奥の客席では中庭に面しカウンター席を設け、濃紺カーペットと杉化粧野地板による片流れ屋根に囲われた奥行きのある空間にしつらえている。
 一見、閉ざされた様に感じられる建物だが、中庭の竹が周辺道路から伺えることで来客者の想像をかき立てている。

講評
 軒を出して雨と日差しを遠ざけ、窓を開けて光と風を入れる、昔ながらの手法の逆を取り、外周りを閉ざし、僅かに中庭の竹が屋根越しに見えて、雑然とした街中で、何か不思議な別世界を思わせる。老舗ならではの自信のある構えに先ず驚かされる。筒どいを使わない雨の処理をはじめ、細部にわたって丁寧に作りこまれた真面目な設計者の仕事を見せてくれている。見ごたえのある中庭を作った腕たちの庭師の技で、駐車場に欲を言えば小さい苗木でも植えていただき、やがて夏の車と街に涼風を送りながら迎えて下さると嬉しいと思ったところであった。
―山本 長水氏

佳作 一般建築部門 上島町ゆげ海の駅舎
佳作 一般建築部門 上島町ゆげ海の駅舎

撮影:新良太

所在地
愛媛県越智郡
用途
事務所
構造
木造
敷地面積
166.046m2
延床面積
154.29m2
施工
株式会社 河上工務店
竣工年月
2017年3月
講評
 作品は、海と陸とをむすぶ観光案内所です。この地で、集落・建物・生活の調査・地域資源と観光を課題に、住民と議論を9年間続けた結果の産物である。在来工法による建物で、外周を1回り半の斜路で固め、2階展望所で終る。その内側は、吹抜で螺旋の斜路が一望でき、おおらかな建物です。墨付け・加工を行った大工は、大工冥利を味わったに違いない。
―田處 博昭氏
佳作 一般建築部門 徳島県木材利用創造センター林業人材育成棟(木舎)
佳作 一般建築部門 徳島県木材利用創造センター林業人材育成棟(木舎)

撮影:米津光

所在地
徳島県徳島市
用途
木材林業研修施設(研修棟)
構造
木造
敷地面積
12,026.81m2
延床面積
472.02m2
施工
坂本工務店・内野設計
異業種特定建設共同企業体
竣工年月
2018年2月
講評
 佳作にしておくのは惜しい力作です。木材の魅力を余すことなく感じてもらいたいとの思いが漲っています。背後の林から丸太の架構、製材の組み合わせによる斗拱的な小屋組、さらに合板などの加工木材の世界へと変化する木造空間のヒエラルキーや、本体架構を妻面にまで突出させて表現した熱意は、なかなか余人の及ぶところではありません。惜しむらくはその妻面が、より人を迎える第一の顔としての扱いに出来ていればと思います。
―古谷 誠章氏
佳作 一般建築部門 高知県自治会館新庁舎
佳作 一般建築部門 高知県自治会館新庁舎

撮影:川辺明伸

所在地
高知県高知市
用途
庁舎
構造
鉄筋コンクリート造+
木造 一部 鉄骨造
敷地面積
798.73m2
延床面積
3,648.59m2
施工
株式会社 竹中工務店
四国支店 営業所
竣工年月
2017年9月
講評
 高知城を望む地価の高い、中心地の防火地域に木造ビルを建築するという、課題の多い、前例の少ないテーマに粘りづよく、息切れせずに取り組んでいる印象である。木を使って耐火建築物をつくる課題は込み入っていて、様々な規制は評者の把握を超えるものがあるが、ブレースに木を使うことが許される点を前向きに生かしてデザインすることで、今迄に余り無い木の空間を丁寧に実現している。この斜材は前の通りからも見え、洗練されたファサードと共に、安らぎの街並みを予感させるものがある。
―山本 長水氏
佳作 住宅部門 佐川町立黒岩中央保育所
佳作 住宅部門 佐川町立黒岩中央保育所

撮影:川辺明伸

所在地
高知県高岡郡
用途
保育所
構造
木造
敷地面積
2,251.36m2
延床面積
520.55m2
施工
株式会社 響建設
竣工年月
2017年2月
講評
 敷地は、段々畑で南に眺望が開かれている。この地形を生かし、造成を最小限にとどめ、平面計画に組み込まれている。また、敷地上方の民家の眺望を配慮した緩い勾配屋根、加えて、園内の日射の取り込みや暖気の排出の高窓が工夫されている。園内床も段差が設けられ、階段は、アーチで象られた2段ベンチや本棚の隙間に3ヶ所計画されている。園児目線に徹した建物です。
―田處 博昭氏
佳作 一般建築部門 すくも商銀信用組合 本店
佳作 一般建築部門 すくも商銀信用組合 本店

撮影:米津光

所在地
高知県宿毛市
用途
銀行(店舗)
構造
木造
敷地面積
1,294.64m2
延床面積
804.83m2
施工
株式会社 山幸建設
竣工年月
2017年6月
講評
 地球温暖化の問題を抱えて、行き詰まりを迎えている近代文明に対して活路を拓くものとして、見直されはじめている木の建築に正面から取り組んでいる、新しい時代の銀行建築である。晴天の多い高知の太陽光を受け、日本一の高知の雨を素直に流す、南下がりの片流れ屋根を採用して、シンプルな形態に留めていることに、内部のダイナミックな構成と共に、設計者の確かな造形力を感じさせてくれる。ただ、外壁などにアセチル化処理された外材を使っているが、軒の下の目板張りのスギは百年持つことを教えてくれている経験を素直に信じてもよかったのではないかと思われるところである。
―山本 長水氏