第6回四国建築賞2024
趣旨
 建築家は、その業務において文化を継承、創造し、自然環境をまもり、 安全で快適な環境つくりを目指し、人々の幸福と社会文化の形成に寄与しなければなりません。 JIA四国支部ではJIAの建築家憲章の理念に基づき、四国4県に造られた 建築作品、群、あるいは活動において、特に4県それぞれの四国らしさ、 すなわち風土性、社会性、歴史性、文化的文脈が受け継がれ、昇華されたものを顕彰する目的で四国建築賞の制度を設置しました。本賞は、JIA会員のみならず、優れた建築文化や環境形成、地域の発展に寄与した建築作品を設計し、地域活動を展開されている建築家、個人、団体を幅広く募集、顕彰いたします。

応募対象
2014年1月1日〜2024年5月31日 四国内に完成した建物または活動
応募登録期間
2024年5月 1 日 〜 6 月 30日
趣旨
建築部門
審査員長
城戸崎 和佐(建築家)
審査員
多田 善昭氏 (建築家)
審査員
松村 暢彦(愛媛大学教授)
業績部門
審査
四国建築賞実行委員会 
主催
(公社)日本建築家協会四国支部
後援
高知県 愛媛県 香川県 徳島県
高知新聞社 愛媛新聞社 四国新聞社 徳島新聞社 RKC高知放送
(一社)日本建築学会四国支部 (一社)日本建築構造技術者協会四国支部  
(公社)高知県建築士会 (一社)香川県建築士会
(公社)愛媛県建築士会 (公社)徳島県建築士会 
(一社)高知県建築士事務所協会 (一社)香川県建築士事務所協会
(一社)愛媛県建築士事務所協会 (一社)徳島県建築士事務所協会

■総評
第6回四国建築賞は2024年7月27日に愛媛県美術館において一次審査が行われ、30作品のプレゼンテーションと質疑応答の後、審査員3名が票を投じたが、票がほぼ重ならず、各審査員の推しの議論を交わす中で9作品が二次審査へ進むこととなった。二次審査は9月13日午後に高知市の「フクヤ建設社屋」の現地審査からスタートし、宇多津町の「cell」へ、高松市内で車は高知から香川に交代、翌朝から「仏生山の家」、「四国村ミウゼアム『おやねさん』」、昼食を挟んで「東林院弥勒堂」、車は香川から徳島に交代し「阿波銀リース本店」へ、さらに高知方面へ移動する途中の池田付近で、車は徳島から高知へ交代し高知泊。翌三日目は「四万十市総合文化センターしまんとぴあ」へ、昼食を挟んで車も高知から愛媛に交代し、今治市の「3×12」、最後は夕暮の迫る中「松山友の家」にて現地審査終了となった。どの作品も、建築家だけでなく建主もともに案内してくれて、40分という限られた時間の中で、様々な視点から建築の魅力を伝えてくれた。
現地審査は四国一周半、約735kmの旅となったが、車中でそれぞれの建築評を交わすことがなかったのは意外であったし、終了後に松山市内で行われた最終審査では、冒頭に満場一致で「東林院弥勒堂」が大賞に決まったことも、一次審査では個々の意見が分かれただけに、少し意外に感じられた。それだけ「東林院弥勒堂」が力のある作品だったということだろう。審査員の多田善昭さんは一次審査から「四国らしさとは」を問い、松村暢彦さんは「社会や都市とのつながり」を主軸に判断されていたように思う。私は「構造と意匠」「ランドスケープと周辺環境」のそれぞれの関係に注目してきた。優秀賞は、「cell」「四国村ミウゼアム『おやねさん』」「阿波銀リース本店」「四万十市総合文化センターしまんとぴあ」の4作品について、各審査員の上記の判断基準も踏まえ議論を交わしたが、いずれも優劣つけ難く、賞の趣旨に立ち戻って「人々の幸福と社会文化の形成に寄与」する建築とは何かを議論する中で決定した。一次・二次の審査を通して、どの作品を落とすかという議論には一度もならず、各作品の特長を理解し言語化することで、賞を決めることができたのは、ひとえに多田さん、松村さんの崇高なる建築への愛と批評精神の賜物と感謝している。

-審査員長 城戸崎 和佐
 

■審査経過レポート
第6回四国建築賞は、建築部門に一般建築20件、住宅10件の計30件の応募がありました。今回は業績部門への応募はありませんでした。7月27日松山市の愛媛県美術館・講堂において、応募者によるプレゼンテーションと公開審査会(一次審査)を行い、現地審査対象作品を一般建築6件、住宅3件選出しました。現地審査(二次審査)は9月13、14、15日に行い、賞の趣旨に基づいた厳選な審査の結果、大賞1作品、優秀賞3作品、佳作5作品の受賞が決定しました。
四国建築賞実行委員会 委員長 鈴江 章宏

審査結果

東林院弥勒堂
大賞 東林院弥勒堂
所在地
徳島県鳴門市
用途
寺院(弥勒堂)
構造
鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
敷地面積
6,086.76m2
延床面積
185.38m2
施工
株式会社藤木工務店四国支店
竣工年月
2023年2月
設計主旨

東林院は、天平五年(733)開基の徳島県鳴門市にある高野山真言宗の寺院である。弘法大師空海とのゆかり深く「種蒔大師」とも称され、発心の場として、また先祖供養と安心の拠り所として、永く地域に親しまれ愛され続けてきた。
この寺院の宝物の一つに、平安後期に造立したとされる国指定重要文化財「弥勒菩薩坐像」があり、この度、寺および檀信徒にとっては悲願であったこの「弥勒菩薩坐像」を奉安する弥勒堂、そしてそれに併設する納骨堂の計画を行った。
設計当初は、地下1階地上1階の木造+RC造での検討を行っていたが、地下水の問題、納骨堂における県条例の規制により、地上1階のRC造+鉄骨造に落ち着いた。
建物の構成は、中央に弥勒菩薩坐像を奉安する内陣と、その両脇に4.5m×9.0mの外陣(廟所:納骨堂)を、大きな瓦屋根が覆う構成とした。坐像造立とほぼ同時代の社寺建築、構造美がそのまま意匠美となる「大仏様」の様式をモチーフとし、単に歴史や技術の継承のみでなく、現代の建築の感性、技術を活かし、今と調和し、未来へと受け継がれる社寺建築をめざした。配置についても、今後の東林院の境内の在り方を見据え、種蒔大師を本尊とする大師堂への参道を軸線に、かつて茶堂があった敷地に弥勒堂を据えている。
 坐像を安置する内陣は、重要文化財の保護を第一義とし、文化庁とも密に協議を重ねた。また「閉じて隠された宝物ではなく、より多くの人々がふいに出会える弥勒様であって欲しい・・・」という住職・副住職の想いも反映。通常は、雨・風・光を遮る格子の雨戸に覆われているが、祭事や特別な日に限り、すべての窓を開け放ち、内と外がつながった空間で弥勒菩薩坐像と自由に向き合うことができる、二面性の両立をめざした。
 廟所は、24時間365日、いつでも自由に故人と向き合える運用を取り入れている。また、今後は内陣にて弥勒様を囲んで行う「葬儀」も企画提案され、単なる重要文化財の安置施設ではない、永続的な利活用を前提とした「祈りの時空づくり」を心がけた。

講評
重要文化財の弥勒菩薩坐像を間近に360度から拝観でき、さらに像の前後の開口部を外気100%のフルオープンにできる、とはなんと難易度の高い挑戦だろうか。さらに瓦職人と相談しながら決めた屋根の反りは、19ミリの鉄板を切り出した垂木が成立させている。この美しいスチールの構造体を木質系の天井ルーバーが隠しているのは勿体無いと思っていたが、開口で途切れることなく連続する天井の意匠が、内から外へ、視線を前面の大きな芝生広場に導く。加藤一真副住職は「信者でなくても誰でもここでピクニックをしてくれたらいい」と仰る。台湾の寺院の前庭に屋台が出ているが、四国らしさが東南アジアらしさにつながる可能性をここに感じた。
-城戸崎和佐

平安後期のものとされる重要文化財「弥勒菩薩坐像」を芯に鎮座させる弥勒堂は、多くの表情を与える木ルーバー天井・建具を駆使することで、見事に弥勒菩薩の華麗さを醸し出している。また参道から大きく正中を外したアプローチにより、シンメトリーをより強調している。丁寧に整備された周辺の植栽環境から9m×9mの空間に光と風を取り込む空気感の演出が心地よく、両側の納骨堂からは両界曼荼羅をデザインしたエッチングガラス越しに弥勒菩薩を礼拝することができる。人々を救済するために思索にふける様子を表現した弥勒菩薩の姿のごとく、建築界が信仰の対象物としての伝統寺院建築様式に対して、過去から未来に求められる機能を探り、一つ残らず包含し、歴史と文化を尊重しながら未来の様式へ向かおうとした強さも感じられる。
-多田 善昭

美しい反りの大屋根と銀古美の瓦が奏でる多様な色が古刹の境内の風景にとけこむ寺院建築。住職、副住職のいつでも向き合える弥勒様の思いを実現すると同時に、重要文化財でもある弥勒菩薩座像を雨、風、光から保護するために格子雨戸で覆うなど建築的な工夫が随所に折り込まれている。全ての窓を開け放つこともできる特別な日の内陣では、静謐な空気に包まれた穏やかな時間が流れ、近隣の集落の中でもここでしか味わうことができない特別な場所になっている。弥勒菩薩像を取り囲んだ法要ができる内陣や弥勒菩薩像と曼荼羅越しにつながっている納骨堂など寺院とわれわれの新しい関係性をデザインしてくれる優れた建築。
-松村 暢彦

優秀賞 cell
優秀賞 cell

写真:Naoki Yoshikawa

所在地
香川県綾歌郡
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
323.44m2
延床面積
135.09m2
施工
株式会社 ビルド
竣工年月
2018年7月
設計主旨

計画地は、香川県の西側にあたり、遠い昔は塩田で栄えた街。
国道33号線を境に、北側は塩田が埋め立てられた新興の街、それに対して南側は古い街並みが残る古街となっている。
多くの若い家族が、北側の新しい住宅街を求める中、施主は昔から残る古街側を選んだ。
このエリアは、狭い地域に寺社が点在し、四国八十八ヶ所霊場でもある。
塩田時代の街家造りの商家に、平入りの形式・黒瓦と黒漆喰の建物が多く、敷地の前面道路は古街らしい舗装が守られ穏やかな空気の流れを感じる。
施主は、夫婦2人子供3人の5人家族であり、夫と妻の両家の両親が近所に住む。
未だ残る「人と人の触れ合いの文化」を大事にしながら、且つ家族の未来をどう考えるべきかを模索している。
宇多津の街並みを散歩するように、そして近所に住む両家の両親が気軽に訪問できるように、建物を通過するような土間空間を中央に設け、路地に引き込まれるような平面計画としている。
建物内部は、プレーンな平屋の箱で、X方向・Y方向共に門型のフレームを連続させ、5人家族のそれぞれの居場所を確保する為に緩やかに空間を仕切りつつ、豊かに繋いでもくれる。
このフレームは木造の90×90の柱を片側合板で連続させ、それは効率的で空間が展開していく軽快さも生み出す。
夫は仕事上、転勤が多く子供3人も成長と共に空間の必要性がどう変化していくか予測仕切れない。
一人、また一人、家を出て行くかもしれない環境化で、家族が建築に合わせるのではなく、建築が家族に合わせると発想を逆転させ、「空間が拡張・分節・吸収・移動」をその時々で繰り返せるようにしている。
つまり、今後の家族の変化を受け入れ、空間が細胞分裂を繰り返す建築と言える。
そして、ご夫婦二人が幼い頃に近所の神社で駆け回わり鳥居を通過した記憶をオマージュするように、この地域ならではの生活体験がこの建築の構造形式となっている。

講評
かつて町長や町衆とともに「道はサロン」「責任のともなうルールつくり」「暮らしている人に優しい…」のテーマを掲げ、まちづくり・みちづくりを進めた古街。今も人と人の触れ合いを大切に歩んでいる古街の魅力を見抜いていただき、建設地に選んで頂いたことに感謝したい。“古街のみち”に面した外観は、エントランスの大きな開口とキッチンの小窓のみで一見閉鎖的に見えるが、土間及びサンルームの存在により、まちと共生し、まちに開かれた住まいとなっている。内部は6か所の十字形の構造体が生み出す「拡張・文節・吸収・移動」の繰り返しが実に楽しい。その時々で繰り返す「拡張…時間」を刻み残す策として、貫構法などを用いて製材で構成するのもひとつの策だと感じられた。          
-多田 善昭

優秀賞 四国村ミウゼアム「おやねさん」
優秀賞 四国村ミウゼアム「おやねさん」

写真:太田拓実

所在地
香川県高松市
用途
博物館エントランス施設
構造
鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造・木造
敷地面積
54,907.76m2
延床面積
441.08m2
施工
鹿島建設株式会社四国支店
竣工年月
2022年3月
設計主旨

四国の民家を収蔵し後世に伝える,日本有数の屋外博物館である「四国村」の入口と出口をどうデザインするか,というプロジェクトである.

エントランスエリアにあたる敷地には,北側に彫刻家・流政之氏の壮大な作品である「流れ坂」,南側には古い民家を移築した「わら家」,東側には神戸から移築した古い洋館である「異人館」が,既存駐車場によって分断された状態で存在していた.

当初は別々に存在していたこれらを立体的に接続し,この場所の潜在的な価値を空間として現前させるため,「わら家」と「流れ坂」の間を緩やかな勾配となるよう地形を改変し,新たな地形に「おやねさん」を新築することで,既存の資源の関係性を空間的に調停しなおした.

敷地は源平の合戦でも有名な屋島の麓にあり,国の史跡・天然記念物に指定されているため基礎を深く掘ることができず,基本構造をRCとして建物の剛性を高めたうえで屋根の木架構を構成している.また地盤調査より建物西側ほど地山が浅いことが分かり、西側は半屋外平屋として建物重量を抑え,地山への影響を最小限にするため独立基礎の鉄骨造とした.RC造の基礎については1F床スラブを基礎構造として見込むことで,布基礎の梁成を抑えている.

このように地山への影響を考慮し,建物に求められる機能を整理することで,東西で階数が異なる計画とした.東西で求められる屋根の高さの変化に加え,南側では人の出入りに応じた軒の高さの変化,北側では流れ坂から2階へのバリアフリー動線を確保しつつ,流れ坂の勾配に対応した軒の高さの変化がある.屋根頂部の高さと,南北それぞれの軒の高さが異なるため,47組の木の合掌はRCや鉄骨の梁を支点に勾配や寸法が変化し,シンプルな構造形式でありつつも,全体としては生き物のような有機的なシルエットが生み出されている.

講評
四国村ミウゼアムのゲートエリアとして、古民家、異人館、流れ坂と別々に存在していた資源を一体的に接続するために、建築レベルだけではなく敷地レベルでも対応した建築物。地盤調査から前面道路との関係を検討した結果、地形を改変し、歩道を配した緑地斜面とすることで古民家との空間的つながりを生み出している。また、流れ坂の勾配に対応して軒の高さを変化させた北側と人の出入りに応じた軒高の南側により、シンプルな構造形式でありつつも、勾配や寸法が異なる合掌によって有機的なシルエットが生まれている。また、新設した軒庇により四国村の来場者の動線が整理され、ゲートエリアとして機能性を高めている。
-松村 暢彦彦

優秀賞 四万十総合文化センターしまんとぴあ
優秀賞 四万十総合文化センターしまんとぴあ
所在地
高知県四万十市
用途
劇場
構造
鉄骨鉄筋コンクリート造 一部、鉄筋コンクリート造 鉄骨造
敷地面積
7,316.88m2
延床面積
6,966.09m2
施工
株式会社竹中工務店・サイバラ建設株式会社 特定建設工事共同企業体
竣工年月
2024年4月
設計主旨

高知県の南西部、『日本最後の清流』四万十川が流れる四万十市に建つ文化施設である。市内に点在する既存のホール・公民館などの文化活動施設の老朽化に伴う再整備事業として、統合・複合化し文化芸術活動・交流の拠点施設として整備している。

市民対話や利用実態の調査から、非常に文化活動が盛んなことが分かった。その一方で、既存施設の利用者属性には偏りがあった。多様な文化活動を受け止める器として、新たな利用者の受け皿となり、多世代・多様な活動が交わり、相乗効果が生まれるようなマッチングポイントとしての居場所となることが重要だと捉えた。
 
活動や賑わいがこの場所で完結するのではなく、広がり、つながるように、隣接する公園まで連続する共用部を設えている。外装材を内部にも展開させ、異なるテクスチャーの各室ボリュームの配置をバランスさせることで、まちを散策するような空間を体験することができる。大きな流れから分岐する支流は、路地のような小さなスケール感を持った空間となるが、開かれた場所や少し奥まった場所など、多様な小さな器として点在させることで、この場所がハレの場だけでなくケの場所として、日常と地続きにある器となることを意図している。

何気なく訪れた利用者が非日常の催しに偶然出会うきっかけとして、吹抜けを介した視線の交錯やオープンな設え、貫入や重なりを持った多様な空間の構成を心掛けた設計となっている。

講評
駐車場に車止めがなく、駐車スペースと走行スペースは洗い出し平板のモルタルの色を少しだけ変えている。車椅子の駐車スペースにだけ軽い屋根をかけて、エントランスまで低い庇が誘導し緩やかに敷地境界を意識させる。建築の中に入る前に、すでにとても丁寧にまちに開かれた広場の仕掛けがある。フライタワーの位置も慎重に奥側に、しかし線路との間にも低層のヴォリュームを設けて突出しないようにしている。エントランスホールはあえて小さく、すぐに様々なアクティビティにアプローチでき、小ホールのコーナーをオープンにすることで、一目で施設を見渡せる親密感と多様な使い方とがわかる仕掛けをしている。誰もが「自分たちの建築」と思える、使いたくなる公共空間を作り出すことに成功している。
-城戸崎和佐


佳作 フクヤ建設社屋
佳作 フクヤ建設社屋

写真:Kenta Hasegawa

所在地
高知県高知市
用途
事務所+飲食店
構造
鉄骨造
敷地面積
742.03 m2
延床面積
1,779.57m2
施工
株式会社龍建設
竣工年月
2023年5月
設計主旨

高知市を拠点に約50年続くフクヤ建設の新社屋の計画である。
フクヤ建設は戸建て住宅設計施工を主な事業とし、近年では不動産、飲食経営、リノベーション、イベント企画と事業内容を広げ、まちづくりにもチャレンジしている。主な要望として、そういった個性的な事業内容によって固有のコミュニティが生まれている状況を活かして、地域の人達も気楽に訪れて賑わう働く環境をつくりたい、というものだった。地方都市ではかつて、商店街が各所のローカルにおけるコモンズとして機能していたが、大型商業施設ができてからは、顔見知りの関係が切れた商業的な賑わいによって、コモンズは消失しつつある。しかし、最近では小さいながらも各自の個性を活かしたコミュニティが街の各所に離散的に生まれてきており、フクヤ建設もある商店街の古い建物をリノベーションして、小規模な複合文化施設の運営をしている。
そこで、フクヤ建設が関わる人達や事物の連関をマップ化して、新社屋の中にどういったプログラムを入れていくと地域におけるコモンズになり得るのか、施主と議論を重ねた。できるだけ複数の活動がフロアの中に同時に発生していても成立するような距離感や見え隠れが生まれるように、台形の敷地形状や2つの道路に面することを場所づくりに活かすように構成を考えた。
同時に、温暖で日照時間が長く降雨量の多い高知の気候に対して、南と西側に半外部のテラスを各階に設けて、室内への日射を緩和しつつ、各立面で特徴を持った多様性のある外観を目指した。半外部のテラスは建物角部下部で3層分、上部で2層分吹き抜けたスケールを街に提供し、地方都市ならではの風通しの良いおおらかな風景が生まれている。通りから2階のカフェテラスにゆっくり上がる鉄骨階段は人を気楽に建物に招き入れる役割を果たしている。
敷地周囲の橋や鉄道といった土木構築物に対して、外壁は存在感のあるRCとし、鉄骨躯体の軽やかさと合わさって、道行く人が安心感と楽しさの両方を感じられ、多くの人が出入りする中で地域におけるコモンズとなることを目指している。

講評
ブレースの無い鉄骨ラーメンと外周の細いピン柱によって自由度と開放性のある空間を作り出し、台形敷地を囲む街の雰囲気を各階の特性にあわせて建築内部に引き込んでいる。2階、3階にはカフェやラウンジを設けると同時に、プログラム開発など空間のマネジメントも相まって日常的に多様な地域住民の出入りが活発になっている。日常時だけではなく、災害時の避難や炊き出しも含めて民間の施設ながら地域のコモンズとして機能している
-松村暢彦

佳作 仏生山の家
佳作 仏生山の家

撮影:笹倉洋平

所在地
香川県高松市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
261.01m2
延床面積
87.56 m2
施工
株式会社雑賀工務店
竣工年月
2023年1月
設計主旨

日常を異化すること。

夫婦二人で暮らす自宅の計画である。この建築が在る仏生山町は、周囲の山並に抱かれた四国香川県、高松平野のほぼ中央部に位置するまちである。まちは高松藩主・松平家の菩提寺である法然寺の門前町として形成された。門前町を 中心として、かつては、その周囲に長閑な農地が広がる地域であったが、戦後からは、その広がり の中に住宅街がパッチワーク状に造成されてきた。今では、住宅街の密度と農地の広がりとの対比 が、まち全体に独特な雰囲気を創り出している。 敷地は、その中にあって東側、南側に接道を有し 、東側は、農地の広がりに接続されている。この 敷地に出会った時、住宅街の幾分の窮屈さと農地 の広がりを調停しながら、建築のうち、そと、共 に在る日常を異化するように純化された簡素な構成を備えた建築がちょうど良いと感じた。

3寸勾配、1/4間ピッチの梁架構によって屋根が構成される。梁の下端レベルは、住人の手が容易に 届く1,800mmから、かなり離れた4,000mmの幅が備わることで身体との接続性、親近性が場所それぞれに変化する。連続する梁のフォルムの下、 建築断面は、場所ごとにその姿を変えて内部空間 には、重々無尽のざわめきが現れる。

内部のアクティビティ、プライバシーと自然光に よってつくり出される陰翳の綾を企んで、南面の開口は1カ所に絞り、北庭からの間接光による採 光を行う。基礎立ち上がりから持ち出されたスラブに開口を設け、ドラフトを利用した通風を行うことで屋内に緩やかな空気の流れをつくり出すと共に、建築の佇まいは水平性を強調した。南側に張り出す軒を低く抑え、季節の野菜を育てる場となる南庭は、道路を通行する人の視線を緩やかに空へと運び界隈に抜けをつくる。南側に印象的な佇まいをもたらす開口によって内部と庭を接続する縁は、時々折々の活動を支える場となりながら界隈との交歓の場となる。

講評
歴史と地域性の豊かな仏生山に「建築家の自邸」が街に暮らす人たちに「道への開き方と自然環境との共生」のひとつの策を提案していると感じる。一面は開放、もう一面はRC壁(90cm程)を結界のように設けているが、室内に導かれるような開口部によって分断は感じない。季節ごとに光と風を取り入れる北庭は、瀬戸内の気候環境にあって、さらに住まいの環境を心地良くするであろう。大名行列が行われる街道沿いに存在していたら、更に提案力が増すように感じる。
-多田善昭

佳作 阿波銀リース本社ビル
佳作 阿波銀リース本社ビル

写真: ASAKAWA satoshi

所在地
徳島県徳島市
用途
事務所
構造
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
敷地面積
992.94m2(桂浜公園全体)
延床面積
2,178.38m2
施工
井上建設株式会社・株式会社吉岡組共同企業体
竣工年月
2023年9月
設計主旨

風景のパノラマを引き込む開口と外殻の重層
徳島県庁の向かいのかちどき橋のたもとに建つオフィスの計画である。クライアントはリース業務を行なっており、元々のオフィスは当該敷地から離れた場所にあったが、狭小化に伴い交通の要衝にあたるこの地に本社ビルをつくることになった。この敷地は徳島市内・眉山・新町川を一望できる恵まれた眺望を持つ。単にオフィス空間を拡充するだけでなく、周辺環境を内部に広く取り込んだ場所性を感じる空間をつくりたいと考えた。変形した敷地に沿って、南側に水平力を負担するRCのコアとし、バックオフィス機能を集約し、眺望の良い東・西・北面に開かれた鉛直荷重のみを負担する鉄骨造のプレートとし、オフィス機能が4層分積層した構成としている。特に鉄骨造の柱梁は、外郭に対して平面的に45度傾け、梁も現しとしている。柱・梁によるグリッドが内部空間では、45度方向に傾くことで、意識が外の風景に広がっていくような開放感のあるワークプレイスを生み出した。プレートはズレながら積層することでその残余が、外を感じられるテラス空間とした。また、内外の境界面のガラスはリブガラスによるGETAガラス構法を採用することで、眺望を妨げないディテールとなっている。コロナ禍を踏まえたこともあり、開口部は、カーテンウォール化するのではなく、リブガラスに突き出し窓をDPG金物によって取り付ける構成とし、いつでも自然換気が行えるように配慮した。そして、4層の異なるマッスが積み上がった外観には、クライアントのコーポレートカラーでもあり、徳島の土地柄を表す藍色の外壁に柔らかなベールのようなエキスパンドメタルを重ねた帯状のボリュームで構成した。見る場所によって異なる表情を生み出す。この地で50年以上も地域経済を支える企業として風格のある表情を持ったこの建築が周辺の豊かな風景に寄り添いながら、新たな風景の一部となることを祈念している。

講評
国道を挟んで徳島県庁、市街地活性化事業で誕生した新町ボードウォークを有する新町川のたもと、都市環境に大きく影響を与える位置に建っている。徳島を象徴する藍色の外壁は、電解発色アルミエキスパンドメタルとサイディング壁のダブルスキンとし、遠くから眺めても近づいて見てもその効果は大きい。ピロティ部分は平面的に45度傾けた梁と鏡を駆使した柱、特にH鋼梁の高さを変え、繊細さを増している。これらの梁と柱は、内部空間で人と共生し、机配置や照明計画ともうまく共演させていると感じる。
-多田 善昭

佳作 3×12
佳作 3×12

写真:大竹央祐

所在地
愛媛県今治市
用途
住宅
構造
木造
敷地面積
365.51m2
延床面積
119.25m2
施工
藤本建設
竣工年月
2022年3月
設計主旨

敷地は愛媛県今治市の中心部から車で20分ほどの稲田に囲まれた静かな場所にある。稲の成長/収穫とともに1年を通して風景が移ろい、四季の移り変わりを楽しむことができる環境にある。
限られた予算のなかで、この場所で2世帯(子世帯+母)が生活する広さを得るために、建築の構成を徹底的に合理化した。
合理化が生活の質を下げるようなことになって困る。願わくば合理化の先に新しい質を獲得したい。これまでの住宅が与えていた見えない制約から生活者を解放し、生活者自身が自らが生活を獲得していけるような、そんな住宅を目指した。
設計は細かい要望に答えるのではなく、将来の変化に対応できる「箱」を提供することに焦点を当てた。まず平行四辺形の土地に駐車スペースを残して1820のグリッドで3×12マスを構成し、長手方向の1/3の土間に残り2/3の板間にして、土間から板間を持ち出すように支える構成とした。
配管を簡易にするため設備は板間の片側に寄せた。また、内部は短手方向に風が抜けるよう、長手の両面に均等に大きな開口部を設けた。間仕切りは、水回りを囲む壁と世帯間の間仕切りのみとし、あとは「これをどう使っていこうか」と家族と相談しながら作っていくことにした。
家は初期状態から現在に至るまで、多くの要素を取り入れて複雑な構成に進化している。現在も「どう使っていこうか」「どう変えていこうか」という話が続いている。住宅が生活者がとともに成長していく、生活に寄り添い変わり続ける。そんな姿がここにはある。この住まいは、ただの居場所ではなく住人の思い出と共に成長し、時を経るごとにその価値を増していく。家族の絆を深め、日々の暮らしに彩りを加える場として、その存在は計り知れないものとなっている。

講評
関西の近しい建築家たちが皆、大好きだった故中山陽州さんが企画されたこと、合板のボールト天井が設計者とスペースシェアしている山口陽登さんの事務所にもあること、から設計の体制やプロセスに新しい試みがあるのではないか、と想像していた。1820角のグリッドが3行12列並ぶ明快なシステムは、アーキペラゴと題したシステムを寺田雅史さんと構築していた中山さんのアイデアで、ローコスト住宅として実現させたのは設計担当の岩崎さんである。折版屋根の両サイドを開放して通気・断熱層とし遮熱防水シートを張っていることや、土間部分のみベタ基礎とし居室部分を布基礎で浮かせていることなど、構造や防水の選択が合理的でありながら、この建築をユニークなものにしていて楽しい。
-城戸崎 和佐

佳作 松山友の家
佳作 松山友の家

写真:高橋菜生

所在地
愛媛県松山市
用途
公益財団法人事務所兼研修室
構造
木造
敷地面積
586.37m2
延床面積
210.69m2
施工
株式会社トライアル
竣工年月
2022年6月
設計主旨

雑誌『婦人之友』愛読者のための施設の建替え計画。敷地は愛媛県松山市の郊外に位置する。この施設は家事・家計、子どもの教育などの家庭生活向上のための活動を展開する場で、乳幼児から90代まで約100名の幅広い年齢層が利用者となっている。
 以前の建物は、当時の200名を超える利用者のための鉄骨造2階建てで敷地一杯に建てられていた。建替えでは予算や現在の利用者数に合わせて、半分以下の規模に縮小した木造平屋建てとし、使いやすく管理しやすいコンパクトな計画とした。
 ひとつの大きな切妻屋根の下に、ロビーを中心として各室を配することで、各室の活動が感じられ、一体感のある内部空間を構成している。ここでは少人数から何十人という規模まで様々な集まりがあるが、各室の独立性と拡張性が穏やかに共存する両義的な空間性を持たせるよう配慮した。屋根は一部がめくれ上がって高窓を確保し、密に組まれた方杖ごしに、卓越風と自然光を取り込んでいる。軒先は高さを低く抑えながら、周囲に大きく持ち出すことで、様々なスケール感が混在した敷地周辺に対して、親密さとのびやかさを併せ持つ構え方となるように考えた。

講評
大きな屋根が印象的な木造平屋建ての建築物。屋根に設けられた東向きの高窓により、風の抜け道と活動の多い午前中の採光が確保されている。建替え時には活動グループとの徹底的な話し合いにより、鉄骨造2階建ての旧建物より延床面積は半分以下に縮小したものの各部屋が機能的に連携し合うことによって活動の丈に合った自由度の高い空間設計を実現している。旧建物で使っていた思い出の備品を残すことで、記憶の継承がはかられている。         
-松村暢彦