この建築家の職能をよりいっそう明確なものとするためにJIA 四国支部では四国地方で活躍する建築家に対し、そのすぐれた建築活動を顕彰する四国建築賞の制度を設置しました。
本賞は、JIAの理想に基づき、作品としては建築文化の向上に寄与し、芸術・技術の両面において総合的な価値を発揮した建築設計の実績、活動としては、長期にわたってまちづくりや保存再生の業績、すなわち過去10年間に実現もしくは提示された作品、業績を対象とし 建築大賞1作品、一般建築部門 優秀賞数点、住宅部門 優秀賞数点、業績賞 優秀賞数点を授与するものとする。
- 応募対象
- 2004 年1月1日~2013年12月31日 四国内に完成した建築物または活動
- 応募登録期間
- 2014年9月15日~11月15日
- 審査員長
- 古谷誠章氏 早稲田大学教授 / (有)NASCA 代表取締役
- 審査員
- 山本長水氏(日本建築家協会名誉会員)
- 審査員
- 渡辺菊眞氏(高知工科大学 システム工学群 准教授)
- 審査補佐
- 各地域会本委員会委員 1名
- 審査員
- 渡辺菊眞氏 + 本実行委員会
第1回の募集ではJIA会員以外の建築家も含め一般部門20作品、住宅部門17作品、業績部門2作品がノミネートされ、一次審査を公開で、二次審査を現地審査によって大賞1作品、優秀賞3作品、業績賞1作品、佳作4作品が 受賞いたしました。
いずれの作品もこの賞の趣旨が反映されたものであることを確信し、今後現れる建築に少なからずも参考になれば幸いとしたい。
今年新設された「四国建築賞」の審査委員長を仰せつかりました。審査をお引き受けするにあたり、四国支部の皆さんにお願いしたことが二つありました。
一つ目は応募してくださった全作品に対する一次審査を公開で行うこと、二つ目は、出来ればそれぞれの応募者にプレゼンテーションをしていただきたい、ということでした。ともすればこうした賞の一次審査は書類だけ、しかも非公開で行われることが多く、その段階で落選してしまうと、なんとも応募のし甲斐のないものになってしまいます。そこで是非、応募者の皆さんが審査員や他の応募者の方々とも交流のできる機会を作りたいというのがその趣旨でした。快く受け入れてくださった四国支部の皆さんに感謝します。一次審査当日の帰路は大雪になってしまい大変ご迷惑をおかけしました。
公開のもとで現地審査に選ばれた8作品を、年が明けてから四国4県を3日間にわたってお訪ねしましたが、それぞれに立地や機能も異なり、各々に特徴があって力作ぞろいでした。その中で共通して印象的だったのが、地域の特性に真正面から取り組んで、しかもどこかマイペースで大らかだったことです。同じようにスタート以来お手伝いしている東北支部の東北住宅大賞とはまた違った趣がありました。各案の講評はそれぞれに譲りますが、皆さんが切磋琢磨して活躍している様子が伝わります。
見事に第一回の大賞を受賞した《今治のオフィス》は、コンセプト、建築的な完成度共に水準の高い作品で、群を抜いていました。それを追った優秀3作品も、それぞれに個性的です。山里の暮らしと現代の仕事を両立させる古民家オフィス(えんがわオフィス)、生まれ育った我が家に残る牛小屋や長屋を改装して生んだ快適な居住空間(cow house)、地形を生かして配置された美しい非日常空間(オーベルジュ内子)の何れもが、設計者のデザイン力を感じさせます。
狭いようで広く、多様な四国の建築の豊かさを深く味わわせていただき感謝いたします。
―古谷 誠章氏
赤錆びたトタンの屋根や壁の目立つ、活力の失われかけた街の中に、まるで泥田に鶴のような印象で、洗練されたルーバー付きのガラスの箱が立っている。温熱環境の視点から発想されたと説明されているが、明らかに、設計者の密かな意図通り、これを超えて、会社組織のイメージアップに踏み込んでいるようで、ベクトルが合っていれば、建築の持つもっとも幸せな実例かと思われる。
荒い気象の高知に仕事場の中心がある評者にとって、瀬戸内の建築表現はともすれば不安に駆られることもあるが、逆に穏やかな気象の下では、突き抜けた表現でなければ、群を抜く評価は得られないかもしれないと考えさせられる例である。
―山本 長水氏
何もよるべきところのない雑多でやや陰鬱ですらある風景のなか、極めて透明感ある明るいヴォリュームが浮遊する。その存在が周辺風景を軽やかに変容させている。パークやその上部の吹き抜け空間、透明皮膜の全周視線透過のコンパクトな執務空間など、地方のオフィスビルという難問に対する発見性ある新解法に満ちている。ともあれ、コンセプトがダイアグラム化し、それがそのまま素材へ変換され空間として組み上がった建築であり、それゆえの透明性と軽快さである。これから否応なく積み重なる重苦しい時間のなか、この手法による建築がいかに生き続けていくのか、今後の在り方こそ注目したい。
―渡辺 菊眞氏
―古谷 誠章氏
―古谷 誠章氏
地元の木と、地元の和紙を使った、垢抜けした非日常の世界が、静かに、古くからある桜の公園をよりどころに展開されている。ベテランの設計者の力を見せてくれている。設計者はひたすらモダニズムの美観と云うか、単純な面の構成の美しさを追っているようで、伝統の木造では物足りないのか、思い切った新しい木造の手法を持ち込んでいる。しかし木は、経年変化を許して欲しい素材だし、部分の取り替えも折り込んで欲しい。既に美人と言われている人がさらに減量にこだわっているような微笑の残る作品である。
―山本 長水氏
広いとはいえない斜面地に、少しずつズレを孕みながら付かず離れずに設置された建築群配置の絶妙と精妙さ。これが全てを物語る。宿泊棟を構成するCLT(自家製!)の平滑な構造がそのまま表し天井の意匠となり、その他、これら趣向に趣向を重ねた技が細部意匠に至るまで徹底的に練り上げられる。現代数寄屋とはかくのごときかと思う逸品。作者の偏執狂的とでも言えるこだわりがどこか「情念の気」のようなものを建築に漂わせ、不意に背筋が寒くなるが、それもまたよい。
―渡辺 菊眞氏
―古谷 誠章氏
台所の戸棚の扉を使い古した床板で作る。このような味のあるデザイン力の建築家が自ら育った家の牛舎などを生かして再生した自宅である。しかも親の世帯とも、扉一つでつながっている。古い家の再生と言う困難な課題を十分に高いレベルまで、力まずに楽しそうに仕上げている。恵まれた感性の持ち主と思われる夫人の住みこなし上手にも助けられて、落ち着いたインテリアの中で、まきストーブであたためられた、どら焼きを接待されて満ち足りた一時をいただいたが、そのようなさりげない営みにふさわしいしつらえが整えられていた。
―山本 長水氏
母屋と2棟の離れ(元牛小屋と貸長屋)をつなぐ路地を内部空間化し、離れ2棟を取り込んで夫婦の住まいとした計画。双子のような離れ棟の一方(牛小屋)は野趣溢れる小屋組がなまめかしくも現れ、他方の長屋は2階建てを保持し下層は味わい深いキッチンとなる。内部で質の違う空間が清楚な白壁の路地空間によって結びつけられる。また2棟のはざまにある場所はポリカ屋根によって青空天井となり、ここが路地であった記憶を呼び覚ましながら、ここにある暖炉が全体のコアとなる不思議さを表出する。一方、白壁にポッカリ空いた穴の向こうには、ほの暗い母屋が現れ親夫婦のある種の空間の重たさをも体感できる。最小限の手数で記憶を豊かに継承しながら、楽しさ溢れる現在を導きだしている。奇跡的に素敵な場所だと思う。
―渡辺 菊眞氏
それだけではなく、内外ともに(構造も材料も意匠も)、そして空間活用というソフト面でも作者の溢れるエネルギーがあちこちにほとばしっている。ただ、このエネルギーがどこに向かっているかが読み取りづらくもある(小生の読解力の欠落は認めたとしても)。何か大きな物語のなかでエネルギーが爆発しながら建築空間へ結晶していく時がくるのを楽しみにしたい、そんな思いをついつい抱いてしまう作品である。
―渡辺 菊眞氏
―山本 長水氏
―渡辺 菊眞氏
―山本 長水氏
今回受賞した「四国八十八ヘンロ小屋プロジェクト」は88札所と同じ数の遍路小屋を巡礼路に点在させる活動である。四国遍路という全島的文化の中枢ともいえる「こと」に着目していること、生産にあたって、地域のボランティアがその地域で入手できる素材で、しかも、その地域文化がユーモラスに反映されたカタチで、時間をかけて具現化していること、これらは単なる単発瞬発的な施設整備を超えた、ゆったりとした時間での地域文化の昇華を見て取れる。これは上記主旨と照らし合わせても顕彰されるべき特質である。
また、これらの施設の恩恵にあずかった巡礼者たちは数限りないはずであり、この活動を通して四国の建築文化の温かさが広く発信された事となろう。四国建築文化賞の業績としてはこの上ない事例といえる。
このプロジェクトの今後であるが、遍路小屋のメンテナンスが丁寧になされないと、傷んだ遍路小屋の惨めな風景を巡礼地および巡礼者にさらすことになり、現在とは逆の心象を巡礼者に引き起こしかねない。その意味でもこれからの長期的な視点をもってこのプロジェクトの今後にも期待したい。
―渡辺 菊眞
四国遍路という巡礼の構図の中に、現代的に解釈されたお堂を地域で入手できる素材と地域のデザインモチーフで展開している現代版茶堂である。
公的なものでも私的なものでもないこの種の建物は、同行2人といわれるように、巡礼者を媒体としてお大師さんに願いを託す場でもあり、巡礼者と札所周辺の地域とのコミュニティーの場でもある。いわゆるお接待、もてなしの文化である。
建築に携わる者にとって、歴史的に見ても1200年以上続く宗教的慣習に、また札所周辺の風土とどう向き合うか、建築という形で示したものである。
四国建築文化賞の業績として、国内でも例を見ない継続的な取り組みは特質しているといえる。よって、「四国八十八ヵ所ヘンロ小屋プロジェクト」を業績賞といたします。
―四国建築賞設立委員会 委員長 武智 和臣