- 応募対象
- 2006年1月1日 ~ 2016年3月31日 四国内に完成した建物または活動
- 応募登録期間
- 2016年5月1日~6月30日
- 審査員長
- 古谷誠章氏(早稲田大学教授 / 有限会社ナスカ 代表取締役)
- 審査員
- 山本長水氏(日本建築家協会名誉会員)
- 審査員
- 田處博昭氏(日本建築学会会員)
- 審査補佐
- 各地域会本委員会委員 1名
- 審査
- 審査員 および 本実行委員会
8月末に2日間をかけて、四国4県にまたがる9つの作品を見て廻りました。ご準備いただいた皆さんに改めて感謝いたします。土地柄もそれぞれで作品はまさに九人九色の様相でした。まるで異種格闘技の様相でしたが、それでも木造が大半を占めているところは、やはり四国なんだなと感じさせられました。しかもそれが簡単に木造と一括りにできないところに、また四国の層の厚いところというか、バラエティに富んだところがあり、とても感じ入りました。
そんな中で、今回抜きん出て印象深かったのが大賞の《豊永郷民俗資料館》で、これはもう受賞された上田さんの建築の集大成、まさに余人の及ばない迫力がありました。後の作品評でも触れますが、地域の材料に対する確実な技術に裏付けられており、文句なく脱帽です。
これに続く作品群がまた各々に大変な見どころがあって、大混戦でした。その中で他に無いユニークさが際立っていたのが、優秀の3作品ということになります。田圃の中に華やぎのある別天地をスーパーインポーズしたのが《trm:o(トロモ)》、真っ白さがとても印象的です。保存再生された大正時代の旧医院と好対照をなす木造の《織田歯科医院》、保存された庭が診療室に潤いのある解放感を与えています。そして《活魚 漁ま》は、設計者の機転によって再生活用された木造トラスを始め、各所に散りばめられた古物の断片が、元気のよい生けす料理店に「本物」のもつ温かみを与えていて見事でした。
字数に余裕がありませんが、惜しくも佳作にとどまった他の作品も、それぞれにクライアントの夢を叶えた建築家の力量を感じさせ、優れた作品だと感じました。
撮影:上田宏
- 所在地
- 高知県長岡郡大豊町
- 用途
- 民俗資料館
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 4,239.92m2
- 延床面積
- 482.54m2
- 施工
- 有限会社 勇工務店
- 竣工年月
- 2015年6月
当建築は国指定の重要有形民俗資料2,595点と町指定の約10,000点の山間部の民俗資料の収蔵と展示のための資料館です。
敷地は高知県大豊町豊永郷。古代ハスで有名な定福寺に隣接した、美しい茶畑に囲まれたロケーションの素晴らしい地です。ここに佇む建築は美しい自然に溶け込むものでありたいと願います。規模は約500㎡、木造2階建、2棟の建築を敷地の形状と高低に合わせ蛇行させました。内部は中央のトップライトから柔らかい光が注ぎ、肘木を持つ通し柱群が整然と並ぶ吹き抜け空間が広がります。上下2層連続する軸組は空間をさらにダイナミックに見せてくれます。構造材は基本的に特殊材を使用せず、均一材(地元産)で組み上げます。柱に斗供を持つ独特の組み方は大きな家「肘木型」と名付けています。連立する材が肘木の助けを借り整然と並ぶ様を〝現在の大仏様〟、〝木の森〟と呼んでくれた人がいました。願うところです。「森の恵みと生きてきた民の道具を、現代の技術と現代の恵みで包み込む空間」この建築の核となるところです。
資料館という高温・多湿を嫌う性質を考慮し、土佐(高温・多湿の地)の伝統的な蔵や城郭に学び、竹小舞を柱内と柱外に二重に編み、2層の土壁を設ける構造としました。厚い二重の土壁は調湿機能を高める工法として有効でした。昔、蔵に入った時感じた空気と同じ空気を感じていただきたいです。外壁の腰壁は瓦製蓑(みの)風腰壁です。伝統的な雨具である蓑を模して、瓦で建築的に試みたものが「蓑瓦」です。水切りを増すことで「下から降る」と表現される強い風雨に対し、良く水を切り、耐久力のある腰壁をつくりました。外観は重量感とシャープな陰影の強い面は魅力的な表情を見せてくれます。
最後に、ここに展示収蔵される道具一つ一つには、豊作を祈り、家族の幸せを祈る心が込められています。そんな、“地域の命”を後世につなぐ為の“建築”であり続けてほしいと願っています。
―古谷 誠章氏
夏期には時々90%を超える湿度、下から降ると言われてきた台風時の豪雨。四国山地の奥深く、厳しい風土の中で育てられてきた生活の道具の数々の造形美を浮き立たせる装置として選ばれた建築の空間は、やはりそのような風土のもとで長年受け継がれてきた、土佐の土蔵造りの骨太の木組みであり、肉厚の木舞土壁であった。昔のままではなく少し現代の技術を加えながら伝統の知恵を受け継いでいく。この手法が展示物に優しい空気を作り、ピタッとはまった幸せな作品といえよう。山間地の常として、段差のある細切れの敷地を素直に活かして、おのずと分棟形の群を作る配置が決まる。小さい棟は地形になじみ旧棟と仲良くしながら無理なく豪雨をいなす。設計者の経験の凝縮した力作であるが、さりげない姿になっている。
―山本 長水氏
敷地は急峻な山間で、南側には手入れされた美しい茶畑がある。展示品は、森の恵みと共に生きてきた民具で林業・養蚕等、里山の暮しに必要な様々な道具類。鍛屋の炉の復元模型・作業台・柄に手形型の槌。これら道具達を収める建築です。傾斜地の建物は、懸路を渡り2階の玄関を潜ると、中央に4本の柱その周りが吹抜となっている。1階に降りると、柱は通し柱でその先は天窓から光が降り注いでいる。館内は、檜の薫で満溢れ道具達の作業の音や掛声が歓喜の如く聞こえてくる。里山文化の厚みと技に酔っぱらったようだ。
―田處 博昭氏
撮影:米津光
- 所在地
- 香川県観音寺市
- 用途
- 美容室
- 構造
- 鉄筋コンクリート造
- 敷地面積
- 487.53m2
- 延床面積
- 165.47m2
- 施工
- 富士建設 株式会社
- 竣工年月
- 2013年3月
場所性とはなにか、モノリスのように大地にランディングした三角形の白い物体、まさしくこの物体は大野原という場所の社会的な風景やいとなみ、その場所のもつイメージを一変した。コンセプトは「のはら」という原風景的幻想を、ぽっかりと切り取って、ここに心象風景を再現するイメージ。三角形のコートはシンプルに二つの機能の内部空間がタンポポと芝の「緑」、空の「青」を囲むだけの空間。禁欲的なプライマリー空間はコンクリートとガラスだけの最小要素の構成、色彩も白一色のニュートラル。そこに人が挿入されることで初めて目的空間が現れる。単純であればあるほど視覚的なノイズは軽減され、人の内面を映し出す装置になり得るのではないか。いわば、無作為な空間がどれほど豊かな空間を生み出せるか「LESS IS MORE」の挑戦でもある。
―古谷 誠章氏
- 所在地
- 高知県高知市
- 用途
- 診療所+住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 646.60m2
- 延床面積
- 343.84m2
- 施工
- 株式会社 建築工房縁e
- 竣工年月
- 2015年9月
大正14年に建設された「織田歯科医院」は、戦時中の焼夷弾の雨の中や、南海大震災を生き延び、90年経った現在も当時のルネサンス様式とゴシック様式が混在する外観を保持したまま、地域のシンボルとして親しまれている。
しかし、現代の歯科医院としての機能を存続させていくためには新たな施設が求められることとなり、旧歯科医院に隣接する廃屋を解体した上で、住居を併設した新しい「織田歯科医院」が誕生した。新「織田歯科医院」は旧「織田歯科医院」のデザインに敬意を表しつつも、洋風様式に迎合することなく、むしろ木造のもつ暖かさ、柔らかさ、モデュールの表出に配慮した上で、バランスを図っている。
新歯科医院の主出入口を交点として、アプローチ方向にそれぞれ東西軸と南北軸を設定し、配置上その軸線によって分かれた北西部に旧歯科医院、南東部に旧家屋の庭園(池)を保存し、北東部の新「織田歯科医院」と機能的にデザイン的に、或いは内外相互貫入しながら新旧融合し、奥行感を増巾させている。
内部空間においては、外部にも表出したモデュールが積極的に展開される。それぞれの部屋や移動空間で現しとした杉の柱や梁が快いリズム感を空間に与えている。
「織田歯科医院」は生まれ変わったが、「時」を紡いでいかなければならない、という使命感をもってこの計画に取り組んだつもりである。旧「織田歯科医院」の東面を塞いで建っていた不似合な増築棟を撤去し、もとあった姿を推理した上で復元した。建物と同様、趣のある囲障や門柱は新機能に合わせて増設、移設して復元に努めた。そして、旧「織田歯科医院」は設計者の斡旋・監修により、内外のデザインを殆んど残したまま、歯科医院の休診日に営まれる用途にコンバージョンされ、地域の活性化に寄与している。
―山本 長水氏
- 所在地
- 高知県高知市
- 用途
- 飲食店
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 3,254.17m2
- 延床面積
- 363.11m2
- 施工
- 大旺新洋 株式会社
- 竣工年月
- 2016年3月
高知駅から車を東へ。国道沿いに面した、高知の企業による、高知らしい、活気のある空間と新鮮な魚介と炊きたてご飯で豪快におもてなしができる料理店である。
高知では新鮮な魚が市場で出回る中、他では味わえない鮮度・味・活気を提供できる店を作る事をコンセプトとし、魚や野菜仕入ルートの吟味、十分に水質管理された大きなイケスとカウンター席、オープン厨房の採用、そこに至るまでのアプローチと空間の見せ方、に重きをおき、どの席のお客様にも店の活気やしずる感を提供でき、胸が高鳴るような料理店を提案した。
建物中心に大きなイケスと水槽を構え、それを囲うようにカウンター席を配置。イケスの魚を眺めながら食を楽しむ。また、その周囲にテーブル席・個室・小上座敷を配置する。自然素材の内装材の使用はもちろん、構造体・什器備品に四国から集めた古材を再利用し、漁具や大漁旗・フラフでいろどり、素朴で馴染みのある雰囲気を演出する。外装は、折板屋根、スレート外壁に黒塗装を施し、上品な日本料理屋の雰囲気ではなく、肩の力を抜いた、漁師番屋イメージを確固づけ、お客様に目や耳、舌で楽しんでいただく事を試みた。 また、物見櫓が漁村の雰囲気をより一層彷彿させる。
ポーチ前の透明なイカが泳ぐ円形水槽、 エントランスに入るとおくどさんにより今まさに釜揚げされるちりめん、ホールに入ると店員の威勢の良い呼び声、 ハマチ・タイ・エビが泳ぐ大きなイケス。 注文を受けイケスの魚をしぶきを上げながら豪快にすくい上げる姿、 職人の華麗な包丁さばきと目の前で焼かれるカツヲのたたき、 釜蓋を押し上げながらぐつぐつと湯気を上げ炊きあがる銀シャリ、 網の上で踊るサザエやナガレコ、 そしてこれらの活気をより引立てるよさこい節のBGM。 土佐の幸が踊り、粋が舞う、 ここはまるで土佐海鮮料理のライブハウスである。
大屋根は、折板。外壁は波板スレート黒塗りで止め金物は無垢で白光している。大屋根補強の下屋は瓦葺き。植栽外側は透し入りCB5段積み金物の笠木でしめている。鼠色3層と黒色2層の横縞の構成。大屋根を越える櫓を加えて、車窓からすぐ店と判明できる。漁師番屋の大屋根は、古材(木造トラス)を再利用、柱・梁の一部も使用している。トラスの端部に柱。その内側通路脇に柱。桁側外廻りに1間判の下屋で補強し、客室としている。通路側の柱に囲まれた中央に生簀があり、それを囲むように無垢材のカウンターを設け、食事中に魚を見学できる。古材梁間は9m、桁行24mの木造です。変形やたわみ、成型や補強、新旧の取合い等の難問解決の奮闘記が望まれる。
―田處 博昭氏
- 所在地
- 高知県南国市
- 用途
- 事務所
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 4,195.98m2
- 延床面積
- 1,209.73m2
- 施工
- 株式会社 岸之上工務店
- 竣工年月
- 2016年3月
―田處 博昭氏
撮影:小川重雄
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 352.50m2
- 延床面積
- 141.59m2
- 施工
- 株式会社 もみじ建築
- 竣工年月
- 2016年2月
―山本 長水氏
撮影:三崎利博
- 所在地
- 徳島県鳴門市
- 用途
- 住宅+事務所
- 構造
- 木造 一部 鉄筋コンクリート造
- 敷地面積
- 884.24m2
- 延床面積
- 311.35m2
- 施工
- 株式会社 姫野組
- 竣工年月
- 2014年3月
―田處 博昭氏
撮影:北田英治
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 396.62m2
- 延床面積
- 91.96m2
- 施工
- 株式会社 アズマ建設
- 竣工年月
- 2015年9月
―山本 長水氏
撮影:米津光
- 所在地
- 高知県高岡郡佐川町
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造 一部 鉄筋コンクリート造
- 敷地面積
- 930.69m2
- 延床面積
- 330.97m2
- 施工
- 市川興産 株式会社
- 竣工年月
- 2008年2月
「いったいこの家には何脚の椅子をお持ちなんでしょうね」と、思わず訊ねてしまったほど、家の内外のあちこちに寛げる「居場所」があり、思いのままに腰をおろすことができます。家とは、究極的には四季折々、その時々に居心地のよい居場所を求めることなんだなと、訪れた人に感じさせる住まいです。
―古谷 誠章氏
- 所在地
- 愛媛県伊予市
- 用途
- 学校
- 施工
- 山田建工 株式会社
- 完了年月
- 2010年2月
- 事務局
- 公益社団法人 日本建築家協会四国支部
環境省の「学校エコ改修と環境教育」事業として築76年(2009年時点)の木造校舎
「伊予市立翠小学校」の耐震改修と合わせてエコ改修工事を行いました。
文部科学省も安全・防災の点で既存校舎の耐震化を促すべく耐震診断を2005年度12月を目途に通知していましたが、現実は50%に満ちていませんでした。中でも木造は、ほとんど耐震診断、補強工事は実施されていないのが実情である。また、教育方針の点では、総合学習制度の導入等、均質な教育の時代から、個性や創造性、社会参加を重視する教育カリキュラムに変化した。このような観点から、教育環境も新たな学習空間や社会的繋がりが要求されている。
原風景として地域に親しまれた校舎を、子供たちや教職員、住民の方々と学校の将来像、保存のあり方(木造校舎を末永く大事に使う方法の検証)、少子化に伴う学校のあり方など、学校と地域のあり方の可能性について7回のエコ改修検討会を通して検証し、設計図に反映、改修工事へ繋いだ。工事中、子供たちや教職員、住民の方々へエコ教育の一環として現場見学会を数回開催したが、解体間もない頃、構造体だけの建物にショックを隠しきれない見学者の複雑な表情が今でも目に浮かぶ。見学会は、構造体への耐震補強、既存解体材の再利用の状況、断熱材、複層ガラス等の温熱環境の改善、光環境改善のための光ダクトと土俵の移設、太陽光発電、太陽熱温水器、風力発電、ペレットストーブなどの環境機器の説明、西日の遮蔽するための植栽と通風環境改善のための校舎周辺の芝生張りまで、工事監理業務の他に時間を作り繰り返し説明をしてきた。
地球環境を考えると、持続可能な社会を実現していくことが今世紀の緊急課題であることは、周知のことです。世代を超えて使い続けられる価値ある地域資産となるよう建築の長寿命化を図ることは、結果的に環境の保全や人間の健康と安全をはかり住み良い社会を実現していくことに寄与することになると考えられる。
環境省「学校エコ改修と環境教育」事業でも全国唯一の木造校舎による事例で、児童、教職員、地元住民、行政、建築関係者を巻き込んでの展開は、単なる改修工事にとどまらず環境教育と建築教育が同時進行で行われた。建築の歴史や価値、地域の気候風土、エコの基本的理念、在来木造の耐震改修の実態を目の当たりに子供達は関わることができたことは、ほかに類を見ない公共工事の進め方でもあった。初年度の7回の検討委員会では、教職員、地元住民、建築関係者、業者が参加し、環境学の基本的学習のカリキュラム企画と翠小学校の問題点の掘り起こし、改修目標を定めるための検討がおこなわれている。
設計者の応募条件はその検討委員会に全回出席と提言が必須で、公共建築によくある設計料入札ではないプロポーザル形式である。3年間に及ぶ児童の環境教育は、全国から環境学のエキスパートを招請、温、熱、光、風と体感に関わる現象や快適さの条件、エコロジーの理念、地域の風土を学ぶとともに、間近に改修現場を教材にエコ改修の実態を学ぶことができたことは評価に値する。
具体的に、翠小学校のエコ改修の特徴は、木造在来工法の校舎による改修ゆえ民生部門いわゆる一般民家にも応用の効く手法を採用したことである。断熱改修においても、木造在来工法土壁を撤去して耐震要素を付加する方法では、古紙を原料とするセルロースファイバーを採用することで、その利点を利用し軸組壁体内の湿度環境と断熱性能を土壁と同等以上に保つ手法をとったことは、特筆に値する。
取り組みから、事業前後の環境測定等、村上周三氏、慶應大学伊賀香研究室のご指導もあり、CASBEE評価は対策前BEE=0.6から対策後BEE=4.9に改善することができた。元来この事業の目的はCO2の削減を意図する目的であるが、昭和7年竣工の校舎をさらに100年後まで使い続ける性能と機能を実現できたことは、そのこと自体大きな成果であるとも言える。
今後、義務教育の中でこの事業のような環境教育、建築教育が実現できれば、より地域にとって大切なものは何か、地球環境に対して自分たちでできることが何かを学ぶことができると確信できる。
―四国建築賞実行委員会