- 応募対象
- 2008年1月1日~2018年3月31日 四国内に完成した建物または活動
- 応募登録期間
- 2018年5月1日~6月30日
- 審査員長
- 古谷 誠章氏(早稲田大学教授 / 有限会社ナスカ 代表取締役)
- 審査員
- 山本 長水氏(日本建築家協会名誉会員)
- 審査員
- 田處 博昭氏(日本建築学会会員)
- 審査補佐
- 各地域会本委員会委員 1名
- 審査
- 審査員 および 本実行委員会
3回を通して徐々に分かってきたのは四国が四つの県からなる比較的小さな地域でありながら、四者四様に特徴のある独特の地域性を持っていることですが、今回はさらにそれらが良い意味で相互に作用しあっているということです。大昔から激しい台風と向き合って高知では、「雨は下からも降る」といって用心するのに対し、温暖で比較的雨風の少ない瀬戸内側では吹き降りや結露に対して鷹揚に構えていると言った具合ですが、それでも豊後水道側で時折台風の入り込む愛媛とそれも少ない香川には違いがあり、また山、川、海が揃い、その全ての要素をもつ徳島は、時に高知、時に香川に倣った構えを持っているように見えます。
しかし、温暖化により何が起こるかわからない最近の気候変動を見ると、それぞれ今までの知恵だけで安泰というわけにも行きません。そこで四国の四県がお互いの知恵を分かち合うことに大きな意味が出てきます。逆にその意味では、お互いの身近に頼もしい相談相手がいるようなものですね。なかなか得難いことだと思います。四国の中で互いが結びつき、四国以外とも交流する、四国建築大賞の意義はそんなところにもあると思います。
そんな中、今回も二日間をかけて瀬戸内の島々から徳島、高知は宿毛まで、計9作品を見て回りました。弓削島から徳島へはなんと本州側の広島、岡山を通っていくとは思いませんでした。小さいとはいうけれどやはり四国は広いですね。
- 所在地
- 高知県高知市
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 106.40m2
- 延床面積
- 126.89m2
- 施工
- Shinahara建築工房
- 竣工年月
- 2017年3月
高知市内に建つ設計者の自邸である。高知県内には、豊富な木材とそれを扱う大工技術、土佐漆喰と高い技術の左官職人、土佐和紙などの特徴ある建築技術が存在する。これらを何の縛りもなく自由に表現することで、高い伝統技術の継承と新たな建築空間の提示を行う、またとない機会だと考えた。設備機器、建具金物以外の既製品は用いていない。既製品と鋼材以外はすべて地場産材である。高知県産材を用いた職人手作りの家としながら、ダイナミックな空間構成、パッシブなエコハウスを目指した。この住宅は、「高知ならではの実験住宅」である。敷地は前面道路より、約2.5m高い位置にある。敷地面積は約30坪である。この高低差を利用して、コンパクトなスキップフロアによる地下1階地上2階建住宅とした。地階をRC造とし、堀車庫を確保しながら、コンクリートのトンネルを通って建物に入るアプローチを確保する。地上部分は木造として、在来軸組に貫工法、竹小舞を用いた土壁を採用した。南面は、職人の手作りによる木製カーテンウォールとし、太鼓張り土佐和紙障子による光壁とした。貫は意匠の核となっている。土壁の仕上げには、内部は漆喰に骨材を混ぜたものを洗い出す仕様を考えた。土壁は外断熱として、コンクリート面とともに熱容量を発揮させた室内の適温保持を試みた。地階から地上2階までを同一空間として空気的に連続させ、空気を循環させている。壁掛けエアコンを床下に設置してこの家唯一のエアコンとし、中間ダクトファンと併用しながら室内の夏冬の適温を確保している。夏季は、2階部分より強制排熱させ、地階の光庭より冷たい空気を建物内に取り込んでいる。家具は高知県産材を用いたオリジナル家具である。地場産材、伝統技術をふんだんに用いながら、現代を先取りする感性を表現することを試みた。今後、時間をかけて生活をすることで実験を検証し、これからの設計に採用すべきことを採用し、反省すべきことを反省していく。
―古谷 誠章氏
日本一雨が多く、多湿な高知県で、機械に頼るだけではなく、歴史が伝えてくれた、木、土佐漆喰、土佐和紙を主役に取り上げて、若い夫妻の感性にいかに添わせるかを考える。余計な口出しをするものは他にはいない。幸せなひと時だっただろうと、自ずと笑みを覚えるところである。特に土壁の持つ潜熱を含む熱容量の大きさと、貫と一体になって粘りづよく地震に抵抗する性能を評価して壁の主役に取り込むことや、量産された既製品を極力使用しないとする考え方も、来たるべきポストモダンの方向を模索する者として同感するところである。ただ一つ敷地は山の南斜面であり、陸屋根では落ち葉なども留まって、酸性雨が濃縮されるし、将来、太陽の活用も予想される含みを持たせて、お隣と仲良く、南下がりの片流れを選ばれるのが良かったなと言うのが老人の願いである。
―山本 長水氏
敷地は、南向の急傾面地で東西に走る接道も坂道で、北側に位置する。軒並1階が車庫となっている。道上側の路地を通り、車庫裏側が玄関・階段と続く。階段の北側は、半階ずらした床と天井高を控えた室が並ぶ。車庫上には、天井の高い1室のDKとなっている。路地・玄関・階段が風邪の道として構成され、各室に流れ込んでいる。何と言っても、DK南面全てガラスで、割付は、上下2段・方立は梁と同寸割。日差対策に内障子を備えて、明るく広々としている。夜景は、宙に浮かび上がった大きな行灯に変容し、外灯のない接道を道案内する。
―田處 博昭氏
撮影:中村絵
- 所在地
- 愛媛県今治市
- 用途
- 宿泊施設
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 391.62m2
- 延床面積
- 86.54m2
- 施工
- 菅法生建築
- 竣工年月
- 2016年5月
大三島に移住してみかん栽培と養蜂を営む農家夫婦が、自邸に隣接する民家を建替えてつくる滞在型の宿泊施設です。観光客が名所を巡り島を通り過ぎていくのではなく、 島の自然や暮らしを味わうための居場所が求められました。
情報に網羅され、 世界中から物資が輸送される今、 土地固有の風土や場所性が見直されつつあります。 それは風景であったり、 コミュニティであったり、 簡単に何処か別の場所へ持って行って体験することができないものです。 私たちは大三島の暮らしに触れて、この場所にしかない「現代の民家」 をつくりたいと考えました。 プロジェクトを通して島の中で人やものが巡る小さな循環を産み、また島の環境に素直に寄り添ってつくることで、大三島ならではの風土を受け継いでいきます。
「もの」と「こと」の循環をつくる
大三島は大山祇神社を擁する神様の島です。そのため古くから殺生が禁じられ、人々は農業を中心とした産業を営んできました。収穫期に助け合う結の文化は未だに息づいており、あるものを分け合ったり手を貸しあったりすることが当たり前に行われています。プロジェクトではその文化を可視化し継承していくために、建具や石など島で手に入る建材を活用し、もらったり譲ったりすることで「もの」の循環を生み出します。また人手や場所を借りながら、なるべく自分たちでつくることで「こと」の循環を生み出します。
島の環境に寄り添ってつくる
プロジェクトの敷地である宗方地区は、大三島の南にある小さな集落です。敷地は島を一周する県道から海へと下る途中にあり、急勾配のみかん畑に囲まれています。また、敷地からは、多島美の美しい瀬戸内の穏やかな海に向かって大きく視界が開けており、大三島ならでの眺望を楽しむことができます。
計画にあたっては、このような豊かな島の環境に寄り添うような建築のつくり方を意図しました。屋根は斜面地の傾斜と馴染むような片流れ形式を基本としました。海側の軒を低く抑えつつ、一部の屋根を跳ね上げて空を望む特別な場所をつくっています。海側に向かう間口は、6間分全てを木製のガラス框戸として、海に向かって大きく水平に広がる眺望を獲得します。
また、海を見晴らすことのできる木デッキの桟敷や、桟敷と客間に囲まれた土間など、レベル差のある構成によって、一体的な屋根下の空間の中に、個性の違う居場所を生み出します。
四国のベテラン審査員からは、そのナイーブな納まりに多少眉をひそめられる部位もありますが、その辺りは地元をよく知る協力者を得て、これからもこの作品と末長く付き合って行ってもらえればと思います。
―古谷 誠章氏
撮影:北田英治
- 所在地
- 徳島県板野郡
- 用途
- 洋菓子製造販売店
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 1,946.12m2
- 延床面積
- 357.30m2
- 施工
- 株式会社 アズマ建設
- 竣工年月
- 2010年6月
木陰の下に拡がる地域の店舗空間
高度成長期に徳島の工業地帯となり、現在では数少ない人口が増える町の新興住宅街に計画した洋菓子製造販売店である。地域素材の魅力や町に貢献できる緑の環境を育むことを意識する。建築主は、緑の中で作り手と客の目線が通い合い、地域特産の新鮮素材を使ったお菓子がどのようにつくられるのか、香りを楽しみながら、子供からお年寄りまでコミュニケーションができる店空間を目指す。
地場杉材の平角柱が連続する架構で、ブティック(販売)部門と主製造部門の空間をつくる。木造軸組みを保護し、木材の調湿効果などを発揮させるために屋根、壁、床下の通気性をもたせる。高い二つのヴォリューム棟に1.6mの軒を廻す。軒先空間の二階南・西面には従業員のためのテラスを設け、東・北面は広場を囲む。
木造フレームで囲んだ正方形の広場の中心に、大空へと伸びる樹高9mのシマトネリコの樹を四本植える。地元吉野川水系の砂利を敷き詰めた広場に落ちる木漏れ日は、夏はすがすがしい風を生み、春と秋は木々の間から陽光が差し込む。街路樹のヤマモモと敷地の樹木が引き立てあうような植栽配置をし、緑の歩道空間が拡がるようにする。樹木の成長に伴って、冬は風をさえぎり少ない町の緑に潤いを与える。植物は四季を通じて表情が変わる。建築の環境形成の中心性を、建物でなく樹木に据える。
作業場と売場の隔て壁をガラスとし、互いの動きを確認及び目線も合わせられる様に工夫された、新たな洋菓子店となっている。作業場上階は、倉庫等に加えテラス付従業員休憩室を設けている。
―田處 博昭氏
撮影:川村公志
- 所在地
- 高知県高知市
- 用途
- 飲食店
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 1,397.42m2
- 延床面積
- 185.70m2
- 施工
- 四国プレコン 株式会社
- 竣工年月
- 2016年11月
オーナーシェフの祖父が所有し、開発から取り残されていた水田跡地に既存店の2号店として計画された。郊外型レストランということから駐車台数の確保、近隣店舗との関係について検討を重ね、思った以上に騒々しい西側アメニティ道路や近隣店舗の喧騒への音対策を施し、隔絶された空間を目指した。合わせて計画当初からクライアントより「えんがわ・中庭」のキーワードが提示されており、全ての客席より伺える中庭を囲む凹型の平面が導き出された。
外観は広がりのある平面、メンテナンスの容易な低く構えた平屋、1号店とは異なるカフェ要素が入ってくる、などからあえて軒を出さず、大屋根を回り込ませた愛らしくシンプルなシルエットとしている。
大屋根建築の外郭ラインは樋により煩雑になりがちだが、建物がアメニティ道路に長く面する事からスッキリしたシルエットを目指し、軒樋は雨漏りを誘発しがちな内樋ではなく可能な限り屋根と一体に見えるようディテールの検討を重ね屋根先端部に設けている。また縦樋については「本数が多い→目立つ→隠したい→でも雨漏りは怖い」の葛藤のなか壁に埋没させた開放樋とする事で存在を消しつつ、メンテナンスの容易な納まりとしている。
中庭に面し二つに分かれる客席は少し異なるしつらえとし、中間にパントリーを設け、貸し切りなどいくつかのシーンに対応可能としている。
床仕上げを堅木フローリングとした手前客席では、中庭えんがわを覆うように掛け渡した垂木を内部に引き通すことで天井のほどよい抜け感を演出し、ただただ天井の高い建物にありがちな落ち着きのない空間ではない柔らかな空間としている。奥の客席では中庭に面しカウンター席を設け、濃紺カーペットと杉化粧野地板による片流れ屋根に囲われた奥行きのある空間にしつらえている。
一見、閉ざされた様に感じられる建物だが、中庭の竹が周辺道路から伺えることで来客者の想像をかき立てている。
―山本 長水氏
撮影:新良太
- 所在地
- 愛媛県越智郡
- 用途
- 事務所
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 166.046m2
- 延床面積
- 154.29m2
- 施工
- 株式会社 河上工務店
- 竣工年月
- 2017年3月
―田處 博昭氏
撮影:米津光
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 用途
- 木材林業研修施設(研修棟)
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 12,026.81m2
- 延床面積
- 472.02m2
- 施工
- 坂本工務店・内野設計
異業種特定建設共同企業体
- 竣工年月
- 2018年2月
―古谷 誠章氏
撮影:川辺明伸
- 所在地
- 高知県高知市
- 用途
- 庁舎
- 構造
- 鉄筋コンクリート造+
木造 一部 鉄骨造
- 敷地面積
- 798.73m2
- 延床面積
- 3,648.59m2
- 施工
- 株式会社 竹中工務店
四国支店 営業所
- 竣工年月
- 2017年9月
―山本 長水氏
撮影:川辺明伸
- 所在地
- 高知県高岡郡
- 用途
- 保育所
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 2,251.36m2
- 延床面積
- 520.55m2
- 施工
- 株式会社 響建設
- 竣工年月
- 2017年2月
―田處 博昭氏
撮影:米津光
- 所在地
- 高知県宿毛市
- 用途
- 銀行(店舗)
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 1,294.64m2
- 延床面積
- 804.83m2
- 施工
- 株式会社 山幸建設
- 竣工年月
- 2017年6月
―山本 長水氏