- 応募対象
- 2010年1月1日〜2020年3月31日 四国内に完成した建物または活動
- 応募登録期間
- 2020年5月 1 日 〜 6 月 30日
- 審査員長
- 古谷 誠章氏(早稲田大学教授 / 有限会社ナスカ 代表取締役)
- 審査員
- 田處 博昭氏 (日本建築学会会員)
- 審査員
- 多田 善昭氏 (日本建築家協会会員)
- 審査補佐
- 各地域会本委員会委員 1名
応募作品は大規模の公的な施設から小さな木造の改修まで、文字通り多種多様なものがあり、また四国各県の風土の違いを感じさせるものも多く、とても楽しく拝見しました。四国は小さいながらも太平洋側と瀬戸内側では極端に気候も違い、豊後水道側と紀伊水道側でも雰囲気が異なります。今回残念ながら香川県の作品が二次審査に残りませんでしたが、代わりに丸亀の多田善昭さんが審査員に加わって、行く先々で川の水位の違いなどの話題に花が咲きました。
現地に赴いた9作品のうち7件が木造、さらに他1件にも地場産材が活用されていて、結果としてはかなり木や木質のデザインに優れたものが多かったと言えます。それも近年の四国建築賞ならではの特徴と言えるのではないでしょうか。全国的にも公共建築物の木造、木質化が図られる中、四国の建築が世に先駆けて発信していける要素でもあると思います。
改修の作品も2件あり、一方が小さな納屋をリビングルームに、他方が大型の商業施設を複合文化施設へと改修する、規模も種類も対照的なものでした。小さな旅館の離れも、いわば界隈のリノベーションとも言えるもので、これも全国各地で近年取り組まれている傾向に共通するいずれも示唆に富んだものでした。
非木造では唯一のS R C造新築の大型公共施設作品は、計画前段階からの市民の熱心な協働など、市民が利用する現代の複合文化施設の範を示すものとなっていました。
このように多様な作品の中から一点の大賞作品を選ぶと言うのは、なかなか難しいものではありましたが、甲乙つけがたい中で、現代に活かす木造の構法を模索し、ディテールも徹底的に突き詰めた
上で、見事なデザインに結実させた《小さな石場建ての家》を今年の大賞に選定することとしました。詳細は作品講評に譲りますが、優秀賞や佳作の作品も含めてそれぞれに独創性があり、提案性に優れ
ていたと感じました。今後の一層のご活躍を祈念いたします。
建築賞の趣旨書には、「特に、四国4 県それぞれの四国らしい」作品とあります。『四国らしい』とは、幅の広い語彙で、とまどいもあります。が、応募作品の中には、手慣れた手さばきで「スッキリ使立てられた( 狭義の) 近代建築」と思しき作品も散見されました。
趣旨書は、続けて『社会性、歴史性、文化的文脈が受け継がれ、昇華されたもの』とあります。今回、前回までは応募の無かった用途変更に伴う作品が、3 件ありました。旧商家の建築群を多用途に改修するもの。商業施設をホールに改修するもの。住宅の納屋を住宅に改修するもの。以上、改修方法、用途等、三者三様でした。
前回1 件だったC L T 壁構造が、2 件となりました。日本住宅・木造技術センターの機関紙「住宅と木材」で今年度、特集がありました。応募が増えるかも?
その他は、大小様々ですが木造軸組工法でした。四国は木と言えば針葉樹( 杉・桧) を使用します。針葉樹の木組は、弱点の割列を防止し、バネとなるめり込を多様する構成となります。すなわち木組
は、柱、桁、梁、及び二次部材の接点をすべて下部材に乗せ掛けし、各々の端に余長を設けて、割列を防止します。住宅等の小規模なものでは、部材成も小さく徹底されていない様に感じました。
撮影:米津光
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 266.25m2
- 延床面積
- 76.68m2
- 施工
- 宮内建築 / 長田工務店
- 竣工年月
- 2019年 12月
徳島県は降水量が多く、県土の76%を占める山林は急峻であるため、そういった地域性に適したスギの長伐期林業によって治山治水を行ってきた。
川上に目をやり、山のありように木材の使い方を合わせるデザインを川下で取組むことによって、山の循環の一部としての土着木造建築を目指した。
切り旬を守って伐採した木を葉枯らし乾燥させ、水分や応力をゆっくり抜き、色、艶、香りなどスギ本来の良さを生かし、大切に住み継いで「未来の古民家」となるよう「古美(ふるび)る)」自然素材で構成した。こういう建築をつくることは、川上での選木、造材、木取りなどの林業技術や川下での木を読み、継手・仕口を加工する大工技術などが要求されるので、人材育成や技術、文化の継承につながる。
構造的特徴として、耐力壁は貫と土壁でどこかが特別に強いというのではなく、継手・仕口が全部寄り集まって「総持ち」になっている。また、木組の「めりこみ」や足元をフリーにした石場建てで柳の木のような「柔」構造になっている。そしてなにより、大工の手刻みによる木の架構が内部空間に秩序と安心感を与えてくれる。
百葉箱からヒントを得て地面から約1.5m 上げた高床は湿度、水害対策だけでなく、敷地状況に合った景を得る。伊勢神宮や正倉院、桂離宮などを手本としたプリミティブなカタチに普遍性を求めた。また、外壁のモルタル掻落し仕上げには吉野川の砂を混ぜ合わせて土着の色とした。
コンパクトでも窮屈さを感じさせないように、水廻りをコアにした行き止まりのない回遊性プランとし、玄関から奥に進むにつれプライバシー度を高め、小さな住宅でも「真・行・草」と空間が「奥ゆかし」く移ろうことを意識した。
以上、背後にある山の恵みを高歩留まりで利用し、スギという木そのものが持つ物理的、生物的、情緒的な力でもって建築することによって、自ずと日本建築の美学が貫かれた普遍的なものになるのではないだろうか。
外観では1.5m の高床が目を引く以外は、どちらかといえば一見素っ気なく寡黙な表情に見えますが、内部に入ると一転して非常に濃密で、重厚さと明るさが混在する豊かな空間に仕上がっており、しかもそれが人を寛がせて、まったく圧迫感を感じさせないことが秀逸です。まさに四国建築賞大賞にふさわしい作品だと思います。
―古谷 誠章氏
「未来の古民家」を目指し、筋交いや接合金具を使用せず、「古美る」自然素材によって、木と土…光と影、そして風との共生を実現している。内部空間は、横架材より上部を軽やかに感じさせるため、面戸部から自然光を採り入れる工夫がなされていると感じ、人工照明を消してその効果を確認した。それぞれの部材と空間が助け合うことで、健やかに楽しく暮らし続けることを可能にした作品である。小舞を編み上げた状態の姿を記録するため一旦足場を解体した行為は、一次審査時には建築家のエゴでないか?とも感じられたが、実際に訪れてみて、この姿を記憶に残すことは建築家や施工関係者など「ものをつくる人たちの想い」の結集であり、皆が望んだことであったのだと感じ取れた。この手法・構法の次の作品がどの様な展開から生み出されるか、楽しみである。
―多田 善昭氏
撮影:川辺明伸
- 所在地
- 高知県高岡郡四万十町
- 用途
- 宿泊施設
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 351.37m2
- 延床面積
- 163.02m2
- 施工
- 有限会社 勇工務店
- 竣工年月
- 2018年 11月
明治24 年創業の老舗旅館の別館として計画されました。
町内にはホテル形式の宿泊施設がないため、現代のニーズに対応した個室形式で建てられた木造旅館です。
敷地は窪川駅から三十七番札所岩本寺に向かう遍路道、参道沿いに位置し窪川街分の歴史を物語る景観構成要素である建物が点在する街区にありますが、空き家が目立ち始め人通りが少なくなっています。
クライアントの地元街並みへの深い思い入れや地域に賑わいを取り戻したいとの思いから、空き家2 軒分跡地に自然と街並みのスカイラインを意識するなど景観を損なわない
よう配慮して建てられました。
国道沿いに建つ本館はL 型に別館前の参道に繋がっており、別館建設時に施設全体計画として両館で利用するフロントや食堂のリニューアルも行われ、お遍路さんと別館に宿泊するビジネス客の交流の場ともなっています。
また別館に先立ち建設された住居棟はフロント・食堂へのアプローチに面するため格子塀やアルミ製の外掛簾などを設え旅館の顔作りを行っています。
町内で産出される四万十川流域のヒノキは良質で脂分が多く独特の赤みと香りが高く評価され「四万十ヒノキ」としてブランド化と利用促進・PR 活動が行われています。
構造材や内外仕上材だけでなくホールの什器、客室の家具は町内業者と協働製作するなど四万十ヒノキを多用し、多くの人がその良さを体感し、地域の活性化にも寄与する施設づくりを目指しました。
単独で使うと甘ったるい表情になりがちなヒノキは鉄・麻・玄昌石等の異素材と組み合わせメリハリを、また漆喰・和紙・杉などの地場産材を織り交ぜバランスに配慮しました。
道路に面したホール開口部は高知県内で開発された開口耐力壁「壁ラーメン」構造を採用し、耐力を確保した上で開放的で内外の様子が伺える空間を実現し、宿泊者やお遍路さんのおもてなしの場として、夜間はホールから漏れ出す光で行灯の様に参道を明るく照らしてくれています。
しっかりした木造の造りで端正な気品を感じさせますが、道沿いの壁面では高知で開発された「開口つき耐震壁」を用いて垂れ壁・腰壁部分を耐震要素に、目通りの中間部を開口として視線を抜くなど、新たな技法も積極的に取り入れています。その開口部が奏功して、通りを行く人々とラウンジで寛ぐ人が視線をかわすこともできます。まさに古い宿場町の町屋にある「ミセ」の現代的再現とも言えます。今後も計画が少しずつ周囲に展開されるようで、建物単体ではなくエリア全体の段階的なリノベーションにつながるとても示唆的な取り組みだと思います。
―古谷 誠章氏
- 所在地
- 高知県安芸郡北川村
- 用途
- 簡易宿泊所
- 構造
- 軸組工法+CLT
- 敷地面積
- 872.70m2
- 延床面積
- 442.86m2
- 施工
- 有限会社 芝原建設
- 竣工年月
- 2019年 3月
高知県北川村、ゆずの香りひろがる中山間に整備された、地域コミュニティ機能をもつ簡易宿泊施設(準耐火建築物)である。
外観は、この東部地域の風景にみられる石ぐろ塀、瓦屋根、土佐漆喰鎧壁仕上という台風常習で築かれた蔵建築の構成要素を有しながら、中央テラス面は一転し、木組とガラスで視線にひろがりをもたせ、子どもから大人まで誰もが入りやすい、地域にひらかれたコミュニティの醸成を意識した空間とする。
建物は9.5m同スパンの在来とCLTの二種類の屋根架構で構成。
CLT150mm は下面燃えしろ設計を行い、上弦材・下弦材と異なる勾配で生まれる頂部で三角形を作り、左右千鳥配置させることで板梁の目透かしとした。
各々CLTを切欠くことで織りなす木板は、反復による施工性がよく工期縮減となり、一見屋根に使うことは不合理に思える重たいCLTが、まるで北川村の山々の畝のように軽やかな意匠構造美となり、CLTでしかできない新しい木造表現となった。
―多田 善昭氏
撮影:鈴木研一
- 所在地
- 愛媛県八幡浜市
- 用途
- 児童センター、保育所
- 構造
- 木造
- 敷地面積
-
児童センター 2,379.63m2
保育所 3,058.12m2
- 延床面積
-
児童センター 735.31m2
保育所 1,341.00m2
- 施工
-
児童センター 小西建設 株式会社
保育所 堀田建設 株式会社
- 竣工年月
- 2019年 2月
愛媛県西端に位置する八幡浜市は漁業や水産加工業が盛んな港町で「耕して天に至る」と言われる蜜柑の段々畑が山全体を覆っています。市は中心街から少し離れた保内地区に老朽化した3つの公立保育所を統合して220名の保育所とし、地域より要望のあった児童センターを併設して子育て支援施設とする計画を行いました。本計画の設計競技において、私達は子育て経験や子育て専門家の意見を元に「子どもの主体的な育ちを見守る」ことを計画理念とし、一人親や核家族の増加、少子化による親子の孤立化を避けるため、訪れやすく、安心が得られ、地域に見守られる子育て施設の提案を行いました。全体計画は安心な環境で子どもが自ら活動を内外に広げられるように両施設を平屋とし、同敷地内で0歳~18歳までの子どもが一緒に活動できるメリットを生かすため、ゾーニングは北側を低年齢、中央を交流、南側を高年齢とすることで市施設の中心にある交流ゾーンから全体を見渡しやすく、年齢に合わせた活動が守られながら異年齢交流しやすい空間としています。地域の風土を取り込むため、風や光と共に豊かな自然を内部に取り込む日土小学校のハイサイド連窓を受け継ぎ、施設全体に展開することで段々畑の風景に沿う「段々屋根の子育て施設」としました。段々屋根は大小様々なスケールの内部空間を生み、多様な子育ての空間利用を可能にします。段状に分節された透過性の高い空間と最大12mの無柱空間はジョイスト梁やブレース金物を使用した燃え代設計による木造金物工法により実現し、木構造の現しや内外に国産材のヒノキとスギを使用した木質空間は親子の五感を育みます。開所後は交流広場で市民が子育て行事に参加したり、児童センターが積極的に高齢者と子どもの交流行事を行うことで親子交流だけでなく多世代交流が促進し、本施設が地域の触れ合いのプラットフォームとなっています。
その効果を更に安定させる設えとして、子供たちの目の高さを常に意識した天井の高さ、ハイサイドからの光と風の動き、深い庇に守られたデッキなどが有効に機能している。現代の縦割り規制などが優先される状況では簡単なことではないが、松村正恒氏が常に追い求めていたと思われる「機能別空間の明確なテーマから生み出される空間表現」(主役は利用者、ここでは子供)を、深く追い求めて頂きたかった。日土小学校の川に張り出したデッキのような空間の創造を例に挙げれば、庇も付けられない、硬いコンクリートで舗装されている交流広場については、諸規定等の規制を打開して欲しいと感じる。
―多田 善昭氏
撮影:米津光
- 所在地
- 徳島県名東郡佐那河内村
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 553.43m2
- 延床面積
- 122.74m2
- 施工
- 株式会社 水本工務店
- 竣工年月
- 2019年 3月
納屋の土壁を落として間柱と貫だけを活かしたガラス壁は、元のスケール感を残しつつ庭に繋がる透明な開放感を生み出しています。ヴォールト天井の二階も個性的で、不思議な広がりを感じさせます。この可能性を見抜いた建築家の眼力と、この地に移住するに至った決意に敬服しました。
―古谷 誠章氏
撮影:(株) エスエス大阪支店
- 所在地
- 徳島県美馬市
- 用途
- 図書館、劇場、保育所、店舗等
- 構造
- 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
- 敷地面積
- 12,540.60m2
- 延床面積
- 23,342.36m2
- 施工
- 五洋建設 株式会社 四国支店
- 竣工年月
- 2018年 2月
8m グリッドの柱を覆う「ハコとカベ」の設えは、「人とモノを繋ぐ」機能をもたせた空間構成を築き上げる役割を果たしている。また地下駐車場を取り込んで造られたホールは、構造家・設備設計者のエネルギーが感じられた。
―多田 善昭氏
撮影:上田宏
- 所在地
- 高知県須崎市
- 用途
- 保育所
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 9,946.10m2
- 延床面積
- 1,910.28m2
- 施工
-
株式会社 矢野建設
株式会社 オー・ティ・エス
有限会社 須崎建工
- 竣工年月
- 2020年 3月
―古谷 誠章氏
撮影:DAICI ANO
- 所在地
- 愛媛県
- 用途
- 住宅
- 構造
- 木造
- 敷地面積
- 379.30m2
- 延床面積
- 70.42m2
- 施工
- 株式会社 川下建設
- 竣工年月
- 2019年 11月
―多田 善昭氏
撮影:髙橋菜生写真事務所 髙橋菜生
- 所在地
- 愛媛県伊予市
- 用途
-
文化複合施設
(図書館・文化ホール・地域交流館)
- 構造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
- 敷地面積
- 7,428.30m2
- 延床面積
- 5,867.51m2
- 施工
- 株式会社 合田工務店
- 竣工年月
- 2020年 2月
―多田 善昭氏